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石造りの階段に腰を下ろし、幾つもの赤い鳥居が連なる様を眺めながら、今日からの3日間をどう過ごそうかと考えを巡らせる。
どういうわけか、今日は部活の合宿初日で、あろうことか、あの2人も一緒だ。
目の前に広がる景色も、音も、人も、全てが見慣れない。
心細くて、今すぐにでもこの世界から消えてしまいたい。そんな気分だ。
この窮地を、何事もなかった様に笑って誤魔化せるほど、私の精神力は強くはない。強くはないんだ……。
「困ったときは神様にお願いするのがいいと思いますよ?」
握りしめた掌に食い込んだ爪が、小さく痛みを発した時——不意に頭上から聞こえた声に顔をあげると、真っ白な猫を大切そうに抱いたお爺さんが立っていた。この人は……。
「え?さっきのお爺さん?」
「また会いましたね、娘さん。先程はありがとうございました。とても助かりましたよ」
横断歩道の真ん中で座り込んでいるお爺さんを見つけたのは、京都駅から合宿先のホテルに向かう途中だった。
信号は今まさに赤へと色を変え、先を急ぐ車の列が、耳障りな破裂音を鳴らし始めていた。
「あの後、先生に怒られはしませんでしたか?」
心配そうに呟いたお爺さんに、私は小さく頷いて見せた。
実際のところ、私は先生に怒られるどころか謝られた。そして、なぜかたいそう褒められた。
本来なら、自分が真っ先に気づいて行動するべきだった。瞬時に対応出来たお前を誇りに思う、とまで言われた。
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