229人が本棚に入れています
本棚に追加
「花。おい、花」
体を強く揺すられて目を覚ました時、目の前には顔面蒼白の以蔵がいた。
「ん?以蔵、おはよう」
「おはようじゃねえだろ。どうしてこんな所で寝てたんだ」
以蔵が言っているこんな所とは、私の部屋の前の廊下のことだ。
流石に、妻帯者の龍馬さんと朝まで同じ布団、同じ部屋で過ごすわけにはいかない。そう考えた私は、最終的に廊下で寝ることにしたのだ。
少し肌寒かったけれど、基本的に何処でも寝られる体質なので、大した問題ではなかった。
「ちょっと事情がありまして。っ、くしゅ」
「体が冷え切ってる。早く風呂に入れ」
以蔵が、着ていた羽織を素早く脱ぐと肩に掛けてくれる。優しい温もりに、思わず笑みが溢れた。
「以蔵って体温高いんだね。凄く温かい」
「そんなこと言ってる場合か。兎に角、早く風呂に」
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。以蔵のおかげでもう温まったよ」
以蔵の言葉を片手で制しながら、体の向きをくるりと変える。
注意深く襖を開けて、部屋の中の様子を伺うと、龍馬さんはまだ気持ち良さそうに眠っている。寝顔も可愛いです。はい。
龍馬さんを起こさないよう細心の注意を払って、用意しておいた着替えを持って部屋を出る。
「ふぅ。ミッションコンプリート」
「みっしょんこんぷりーと?何だそれ。いや、それより。部屋にいたのって龍馬か?」
「っ、以蔵。声が大きいよ。龍馬さんが起きちゃうじゃない」
以蔵の口を塞ごうと空に伸ばした手は、役目を果たさないまま以蔵の手に収められてしまった。強く掴まれた手首が痛い。
最初のコメントを投稿しよう!