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「やはり、大久保さんに花さんを会わせる。それが得策じゃないかと僕は思うんだ。龍馬、ここはひとつ折れてくれないだろうか」
重苦しい空気の中、各々が黙々と食事を口に運び。長かった朝餉の時間は終わりを告げた。
その後、私は武市先生に連れられて、龍馬さんのお部屋へとやって来ていた。龍馬さんは文机に向かったまま、私たちの方を向いてはくれない。
「それは無理だと言ったはずだよ」
「龍馬。お前の気持ちは分からなくもない。未来から来た女子だということが知られてしまった以上、花さんは薩摩藩に利用されかねない立場になってしまった。それは否めない。
けれど考えてもみてくれ。僕は、その場にいた訳ではないから安易なことは言えないが。大久保さんがそんなことをする様な人ではないことを、龍馬は1番良く知っているだろう。
売り言葉に買い言葉で、無駄に話が大きくなってしまっただけではないのかい?」
武市先生の言葉に、龍馬さんが、分かってる。そう小さく呟いた。
「大久保さんがそんな人じゃないことは分かってる。でも、花ちゃんには会わせられない」
「どうしてだい」
「花ちゃんは僕のものだからだよ」
相変わらず頑なにこちらを向かない龍馬さんに、武市先生が小さく息を吐いて首を横に振った。
このままでは、上手くいくものも上手くいかなくなってしまう。
「私なら大丈夫です。大久保さんに会わせてください」
「だから、大丈夫じゃないよ」
私の言葉に勢いよくこちらを振り向いた龍馬さんの前に座り直し、まるで子どものそれと見間違いそうな瞳を見つめる。
「やっとこっちを向いてくれました。話し合いはきちんとお互いの目を見て話さなきゃ意味がないですよ?」
バツが悪そうに髪をかき混ぜた龍馬さんを見て、武市先生がクスリと笑い声をあげた。
「花さんもこう言ってくれてることだし。どうだい?これから皆で大久保さんのところに行くというのは」
「それは無理」
「でも。私に会わせないなら同盟なんて組まないって、大久保さんが言ってるんですよね?
龍馬さん達が同盟の為に長い時間を掛けて準備してきたことが、私のせいで無駄になるなんて嫌です」
「もちろん同盟も大切だけど、花ちゃんを危険な目には合わせられないよ。何か他の方法を考えるから、花ちゃんは何も気にしなくて大丈夫」
この話は僕がなんとかするから。龍馬さんはそう言って笑うと、また背を向けた。
龍馬さんは何が何でも私を守ろうとしてくれている。それは、私も同じ。黙って見ていることなんて出来るはずがない。
龍馬さんのことは、私が守ります。絶対にっ。
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