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私の目の前で大きな音をたてて扉がしまった。
そうでしょうとも。そんな簡単に中に入れてもらえるだなんて思っていませんから。これは、想定内です。
「分かりました。中に入れてくれなくていいので、これを渡してもらえますか?大久保さんに」
門番さんが少しだけ扉を開けると、訝しげな表情で生徒手帳を受け取る。
「ちゃんと渡してくださいね?お願いします」
私が丁重に頭を下げると、門番さんは盛大に息を吐いて扉の向こうに消えた。
きちんと渡してくれるだろうか。もう後はなる様になれだ。私にはここで待つことしか出来ることはない。
私は門の傍らにしゃがみ込んで両手を擦り合わせる。未来の京都はもう少し温かかった気がするけれど、此方の世界はまだまだ寒い。
ブレザーがあって助かった。これが夏服だったら完全に凍死しているだろう。寒さのせいか、肩のあたりに鈍い痛みがある。大久保さん、早く中に入れて下さい。
「1人で来るとは、命知らずな小娘だ」
扉が開く重々しい音と共に聞こえた声に、勢いよく立ち上がる。
「あ、あの……」
「兎に角、中に入るといい。いつまでもそんなところにいると風邪をひくぞ」
そう言って、スマートな仕草で私を門の中に招き入れてくれた男性の、そのあまりの美しさに私は言葉を失った。
スラリとした長身の彼は、細めのスーツを完璧に着こなしている。その姿は、とても江戸時代在住とは思えない。
色素の薄いサラサラの髪。神経質そうな眼差し。女性的な指。感情が読めない口元。
この人は——誰?
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