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私を見つめていたお爺さんが柔らかく微笑むと、おもむろにジャケットのポケットに手を忍ばせ、次の瞬間、小さな袋を差し出した。
「先程助けて頂いたお礼と言ってはなんですが、受け取ってくださいますか?」
小さな袋に施された細やかな刺繍が、陽の光を浴びてチラチラと色を変えている。
その輝きは、思わずため息が出てしまいそうなほどに美しい。
「綺麗なお守りですね」
「そうでしょう?
このお守りには神様の不思議な力が宿っているそうです。
心から願えば、必ず叶う。娘さんは信じますか? 」
心から願えば、必ず叶う。
そんなことがあるのだろうか。お爺さんが掌にのせてくれたお守りを、そっと指先でなぞる。
信じる者は救われるとよく言うけれど、信じて救われたことがあっただろうか。
いつも裏切られ、傷ついたのではなかっただろうか。
「私は、どうだろう。お爺さんは?信じますか?」
私の問いかけに、お爺さんはクスリと笑みをこぼし、それから小さく首を傾げた。
「私も半信半疑です。
実のところ、このお守りに願いをかけたことがないので、結果が分からないのです」
「お爺さんには何か叶えたいことはないんですか?」
「そうですね。あるといえばあるし、ないといえばないですね」
「えー?なんだか難しい答えですね」
「そうですか?まぁ、私のことはさて置き。信じるところから始めるのもいいかもしれませんよ?」
「信じるところから?」
「はい。人生は辛いことばかりがやけに目に付きます。
けれど、本当にそうですか?
娘さんの人生には、心を暖かく照らす瞬間など、ひと時もありませんでしたか?」
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