episode 1.

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私を見つめていたお爺さんが柔らかく微笑むと、おもむろにジャケットのポケットに手を忍ばせ、次の瞬間、小さな袋を差し出した。 「先程助けて頂いたお礼と言ってはなんですが、受け取ってくださいますか?」 小さな袋に施された細やかな刺繍が、陽の光を浴びてチラチラと色を変えている。 その輝きは、思わずため息が出てしまいそうなほどに美しい。 「綺麗なお守りですね」 「そうでしょう? このお守りには神様の不思議な力が宿っているそうです。 心から願えば、必ず叶う。娘さんは信じますか? 」 心から願えば、必ず叶う。 そんなことがあるのだろうか。お爺さんが掌にのせてくれたお守りを、そっと指先でなぞる。 信じる者は救われるとよく言うけれど、信じて救われたことがあっただろうか。 いつも裏切られ、傷ついたのではなかっただろうか。 「私は、どうだろう。お爺さんは?信じますか?」 私の問いかけに、お爺さんはクスリと笑みをこぼし、それから小さく首を傾げた。 「私も半信半疑です。 実のところ、このお守りに願いをかけたことがないので、結果が分からないのです」 「お爺さんには何か叶えたいことはないんですか?」 「そうですね。あるといえばあるし、ないといえばないですね」 「えー?なんだか難しい答えですね」 「そうですか?まぁ、私のことはさて置き。信じるところから始めるのもいいかもしれませんよ?」 「信じるところから?」 「はい。人生は辛いことばかりがやけに目に付きます。 けれど、本当にそうですか? 娘さんの人生には、心を暖かく照らす瞬間など、ひと時もありませんでしたか?」
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