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私が今日まで過ごしてきた日々は、決して明るいものではなかったと思う。
けれど、私はその暗闇の中に、いくつもの輝く星を見つけられる。
そのひとつひとつが、愛おしいほどに大切な灯りだ。
私は、いつもどこか半信半疑で、何かを本気で信じたことなどなかったのかもしれない。そう思った。
「信じてみようかな」
「良い決断だと思いますよ」
数え切れないほどの赤い鳥居。
その上を悠々と飛んで行く鳥の羽ばたき。
心地良く葉音を響かせる青々とした木々。
動くことをやめてしまった様に、静まり返った空気。
そのどれもが、この場所が特別なのだということを報せている。でも……。
「うーん……願い事、ないです」
私はくるりとお爺さんを振り返り、肩をすくめる。
いつもであれば、とどまることを知らないほど溢れている願い事も、いざとなるとなかなか名案が浮かばないものだ。
「目を閉じて、静かに自分の心に問いかけるのです」
目を閉じたお爺さんが、胸の前でそっと手を合わせる。
なるほど……。私は社に向き直り、お爺さんに倣って静かに目を閉じる。
両手は胸の前で合わせ、そっとお守りを包み込んだ。
私の願い事は何だろう。私は何を望んでいるのだろう。
「ねぇ、花。今日の恋愛運サイコーだって。慎ちゃんのとこ行っておいでよ。
え? 私のことは気にしないで。大丈夫だから」
不意に、莉奈の言葉が頭の中に響いた。
「莉奈ね。慎ちゃんと花が幸せになって欲しいって本当に思ってるよ。
だって、慎ちゃんのことも、花のことも大好きだもん」
閉じていた目をゆっくりと開ける。頬を伝う涙はそのままに、私は大きな声で言葉を紡いだ。
「私の願いは、莉奈と慎ちゃんがずっとずっと幸せでいることです。
私のことなんて忘れて、幸せになってほしい。それだけです」
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