初潮と少女

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 真由里が処女を捨ててから、一か月が経とうとしている。今日は授業参観がある。真由里はこの日に発表することになっている、「未来の自分」というテーマの作文をしっかりしたためて臨んだ。今日は真由里の母が訪れることになっていた。  授業が始まり、教室の後ろには父兄が沢山集まっていた。担任の先生も今日はスーツを着ていて、女子生徒から「先生、かっこいい」と絶賛されていた。お母さん方からも、黄色い声援がちらほら聞こえる。担任の男子教諭は上機嫌で黒板に赤いチョークで文字を書いた。「未来の自分」と。 「じゃあ、みんな。今日はみんなのお母さんやお父さんが来てくれています。みんなの将来のことをしっかりと届けよう!」  言うと、担任は「新井くんからいこうか!」と、明るい張りのある声を出すと、新井と呼ばれた男子生徒が、緊張した面持ちで原稿用紙を持って席を立つと、読み上げた。内容は将来の僕はサッカー選手になっているだろう、という夢に溢れた、よくある話だった。真由里はぼうっとそれを聞いていた。なんてつまらないんだろうと、早く自分の出番になって、母にこれを聴かせたい。そう思って、他の生徒が懸命に発表していることなど、蚊帳の外の話でしかなかった。  父兄たちの拍手とともに、生徒の発表が次々と終わっていく。そしてやっと真由里の番が回ってきた。真由里は「高橋さん、どうぞ」と言うと、真由里は背中をピンとして立ちあがり、原稿用紙を優しく手で包むように広げると、声をまっすぐに出した。 「未来の私は、お母さんのような女になることが目標です。私のお母さんはとても美人で、とても女としてみりょく的な人です。近所のおばさんも、おじさんも、お父さんも、みんなお母さんのことをいやらしい目でみます。女はきれいでいれば、ライオンにも負けない、強い動物になれます。女というのは、武器です。お母さんはそれを武器にして生活しています。私はそんな女になりたいです。きっと私の未来はきれいだと思います」  全て言い終わると、真由里は担任の顔をじっと見て、原稿用紙を置いた。教室内の空気は凍っていた。しばらくすると冷たくなっていた空気から、ざわざわとどよめきが起こる。真由里の母は、周りの父兄からジロジロと見られてしまい、その空気に居たたまれなくなり、舌打ちを小さくして、顔を真っ赤にして下を向いていた。その反面、真由里の表情は凛としていて、クラスメイトは何が起こっているのかわかっていない様子で拍手をし出した。担任が、 「ありがとう、高橋さん。じゃあ次、田中くん」  言って、真由里を見ることが出来ず、次の生徒へ回した。真由里は親孝行ができたと思った。一番伝えたかったことをみんなの前で伝えられたことに満足していた。きっと母は帰ったら褒めてくれるだろう、そう期待して、真由里はその授業参観を終えた。未熟な真由里の身体と心はこうして成長していく。                                                           【了】
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