Trick or treat

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「いったー!」  知己は、咄嗟にチョコレートを投げつけていた。 「誰が『お姫様』だ! 気色悪い!」  鬼を撃退する節分の豆のごとく、よくコンビニのレジ横に置いてある一口サイズのチョコレートを大量に、将之めがけて投げつけた。 「ちょ、待って! 吸血鬼が苦手なのはニンニクですよ! チョコじゃない!」  将之は華麗にマントをかざして、チョコの直撃を防ぐ。  それでも知己の攻撃は、なかなかやまない。 「ちょ、も、いい加減に……! 食べ物を大切にしてくださーい!」  やっとチョコがなくなったのか。  知己がはあはあと息を切らせて、将之に投げつけるのをやめた。 「……それにしてもいっぱいお菓子を用意してたんですね」  ばらばらと自分の周りに散らばった菓子を見回し、将之が言った。 「先輩、本当にこの小さな包みに包まれたチ●コ、好きですよね?」 「意味不明な所を伏せるな。宗孝にもらったんだよ」 「普通、五歳の甥っ子にお菓子をもらいます? 立場逆転してませんか?」 「宗孝も大量にもらったんだと。俺にお裾分けだって、さ」  甥っ子を溺愛する知己は、時々甥に会いに実家に赴く。先日帰った時にでも、もらったのだろう。 「あ、『お菓子』で思い出しましたよ」 「何?」 「ハロウィンの謳い文句です。『お菓子をくれなきゃ、犯しちゃうぞ!』 でしたね」 「それも違う」  やはり掠っているようで、正しくない。 「大体、俺はさっき大量にお菓子をあげたはずだが……?」  と今更ながら知己は言ってみたが、将之は 「これ、くれたんですか? 僕を撃退しようと投げつけたようにしか見えなかったんですが」  当然ながら不服そうだ。 「まあ、いっか」  ゆっくりとした動作でマントを広げ、知己に覆いかぶさる。 「今日の吸血鬼は早々に仕事が終わって機嫌がいいので、いただくのはあなたの血液ではなく、別の液にします」  なんだろう。  めちゃくちゃセクハラされた感が拭えない。 「それ、いつもだろ?」  と言ったが、将之がそれには答えない。わずかに笑いながら知己をソファに押し倒した。  知己の方も抵抗薄く、まんまとソファに押し倒された。 「じゃあ、これでどうです? 『お菓子を貰ったけど、悪戯しちゃうぞ!』というのは」  妥協案を出されても、知己はその後に降ってきたキスに唇を塞がれて何も言えない。  もはやハロウィンの台詞が何だったのかなんて、どうでもいい。  面白がって仮装で迫ってくる二歳年下の恋人の背中に腕を回し、 (なんだよ。やばいのは俺の方じゃねえか……)  と、すっかり将之に魅了されている自分に気付くのだった。           ―了―
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