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薄暗い中を歩いていく。
ズラリと並んだたくさんの仏壇。
誰かに見られているような気がして緊張する。
ヨッピーの御前に着いて、ようやくほっとした。
写真の中のヨッピーはキラキラの衣装を身に付け、満面の笑みをこぼしている。
「ヨッピー。会いに来たよ。寂しくなかった?泣いてなかった?」
私は溢れる感情を抑えられず涙を流した。
その時だった。
何やら男性の鼻歌らしき声が聞こえたような気がした。
えっ誰?
誰かいるの?
まさか幽霊じゃないよね?
でも幽霊にしてはすごく楽しそうだし、
なんならノリノリで歌い出しそうな勢いなんだけど。
その声は角の向こう側から聞こえてくる。
私は確認しようと決めた。
もし誰かがいるなら鍵も閉められないし、
このままじゃ気持ち悪いし。
私は覚悟を決めて歩きだした。
「幽霊とかいる訳ないじゃん。住職さんだって言ってたし」
深呼吸して角を曲がる。
奥には流し台があり水の流れる音が聞こえてくる。
何か洗っているのかな?
私はそっとその音の方を覗き込んだ。
えっ?えっ?
確かに男性が何か洗っているようだ。
しかも楽しそうに歌いながら。
でもその男性の体は半透明に透き通っている。
ゆっ幽霊!!
住職さん、嘘ついたー!
幽霊いるんですけど!
気付かれないように逃げよう。
私は後ずさりしながらそこから離れようとした。
でもその時、
「あっ凛ちゃんだー!一年ぶりだねー」
振り向いた幽霊が話しかけてきた。
手には濡れたリンゴを持っている。
「ギャァー!!」
と叫ぼうとした私だったが幽霊の顔を見て
「きゃあ」
という可愛い声に急遽、変更した。
だってその幽霊は
愛しのヨッピーだったから!
驚きのあまりに何て言ったらいいのか分からない。怖いけど嬉しい。
ヨッピーはイケメンボイスで話しかけてきた。
「もう閉館時間過ぎてるのに何でいるの?
もう誰も来ないと思って、リンゴ洗っちゃってたじゃん!
幽霊の威厳なさすぎー」
ケラケラと笑うヨッピー。
突然の出来事に私は気絶しそうになった。
でも気絶なんかしてる場合じゃない。
死んだと思ってたヨッピーと出会えた奇跡。
「ヨッピー、ですよね?
本当に幽霊なんですか?」
私は一本釣りで釣られたカツオのように
口をパクパクさせながら言った。
「幽霊だよ。見てよ、俺まだ22歳。
死んだら歳を取らなくなったみたいでさ」
壁に張り付けられた鏡を見つめながら嬉しそうにヨッピーは髪を整えている。
その時、すぅーとヤンキー風の半透明男子が現れた。
「今日は年に一度の良樹の命日だもんなー。
それにしても今朝、お前の母ちゃんが彼氏と一緒に来たのには驚いたよな。
あははは」
はぁぁ?
何これ?このゆるーい空気はなんなの?
混乱する私にヨッピーが話しかけてきた。
「凛ちゃん毎年ありがとう。欠かさず来てくれてるよね。最初はみんな来てくれてたけど、
今年は母と凛ちゃんだけだよ。人間ってこんなもんだよねー」
半透明ヤンキーが、ヨッピーの頭をヨシヨシしている。
ヨッピーは変わってない。
あの頃と同じ笑顔、同じ声。
体は、半透明になってるけど。
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