第17話

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第17話

 夜は蓮華(レンゲ)の部屋で一緒に眠る。  蓮水(ハスミ)が寝ているうちに、弟が居なくなってしまわないか不安だからだ。  玄関のカギは外からも内からもカードキーを持っていないと開閉できないタイプのものに付け替えた。  この部屋は高層階の最上部に位置しているので、窓から逃げることももちろんできない。  蓮水自身が他人の気配が苦手なので、弟と住むための物件を選別した時、防音がしっかりとしている造りを選んだし、両隣は空室にしておいた。財部(たてべ)の名を使えばたやすいことだった。  そのことが蓮華を閉じ込める上で思わぬ効果を果たしている。    しかしそれだけでは安心することができずに、蓮水は夜に蓮華の部屋へと押しかけ、床に布団を敷いて寝ることにした。  蓮華はものすごく嫌そうな顔をするけれど、ちから尽くで蓮水を追い出そうとはしない。  蓮華が蓮水を殴った痕はしばらく紫色に変色していて、それを見るたびに彼は眉をしかめていたから、自分の行いを反省したのだろう。  暴力を振るわない代わりに、蓮華はほとんど蓮水と会話をしてはくれなかった。  彼が口にするのは「出て行け」とか「帰る」とか「嫌い」とか、そんな文句ばかりだ。  それでも蓮水はめげずに弟に話しかけ、彼が好きそうなものを集めた。  ついには飯岡に、 「あまり甘いものばかり与えると、あっという間に太りますよ」  と注意されてしまう始末だ。  その飯岡は日々こまめにこのマンションに通ってくる。  男は蓮水に、財部の本宅に戻れとは一度も言わなかった。  財部亡きいま、蓮水があの家に居る意味はない。それを飯岡もよくわかっているのだ。  会社も、蓮水が居なくとも業務は回る。所詮はお飾りの代表である。むしろ居ない方がいいぐらいだろう。  だが、『玩具』である蓮水を使おうと、重役たちからは再三の出社の要請があった。  蓮水は首を横に振って拒否をしていたが、この会議にだけは顔を出さなければならない、というような案件は飯岡が把握しており、秘書が行けというものだけに、蓮水は渋々応じた。  会社に顔を出したら出したで、重役たちに体を好きに嬲られる。  それを我慢しさえすれば、蓮華との暮らしが継続できるのだと思えば、蓮水は耐えられた。    蓮華との共同生活は、ひと月も経つとそれなりに落ち着いた。  蓮華は相変わらず蓮水に対して敵意と怯えを抱いていたが、淫花廓へ帰りたいとは言わなくなった。たぶん、諦めたのだろう。  蓮水が夜に彼の部屋の床に布団を敷いても、文句も飛んでこない。    蓮華なりに、いまの生活に折り合いをつけようとしているのだと、蓮水は思った。    平穏とは言えないが、弟との暮らしが少しずつ形になってきたような気がして、蓮水の眠りの質も徐々に改善されていった。  蓮華が来たばかりの頃は彼がいつ逃げ出そうとするか心配になるあまり、不眠傾向に陥っていた蓮水だったが、いまではきちんと眠れている。  けれど、(かす)かな物音で飛び起きてしまうことだけは変わらない。  この日も、蓮水は隣のベッドで衣擦れの音が聞こえた途端にガバっと身を起こした。    フローリングの床は硬く最初の一週間で背中やら腰やらが痛くなってしまったため、敷布団を改めて買いなおしたおかげで、いまはやわらかな感触だ。  その布団に手をついて上体を起こした蓮水は、薄暗がりの中、蓮華の様子を伺った。  真っ暗にすると怖いということで、蓮華の部屋には豆電球が灯っている。  そのオレンジの光に、ベッド上の様子が浮かび上がっていた。  蓮華は、掛布団をめくったままでべそをかいていた。  お漏らしでもしたのだろうか?  蓮水は首を傾げて、彼の方へとそっと這い寄った。 「蓮華? どうした?」  彼を驚かせないようにひっそりと声をかけたのに、蓮華は大げさにビクっと肩を揺らして、男らしい眉根をぎゅっと寄せた表情で、蓮水の方を見た。  蓮華の口がパクパクと動く。  蓮水に話そうかどうしようか迷う素振りに、蓮水は一度立ち上がると、ベッドの端へと近寄り、そこに腰を下ろした。 「蓮華?」    ぐしゅっと鼻を啜った蓮華が、自身の下腹部と蓮水の顔を見比べる。  そして涙声で呟いた。 「ぼく、病気?」 「……え? どうした? どこか痛いのか?」  蓮水は慌てて蓮華の顔を覗き込む。  首筋にてのひらを添わせたが、特に熱があるようには思わない。    蓮華は蓮水の手を振り払うことはせずに、下半身を覆っていた掛布団を、ばさりと壁側へ払いのけた。  そして、涙を拭った手で、下腹部を指さして。 「ちんちん、腫れてる……」  と、口にした。  蓮水は唖然と、弟のそこを見た。  彼のまとうパジャマの生地を押し上げるようにして、股間が隆起している。  べそべそと情けない顔で泣く蓮華に、蓮水は思わずふふっと笑ってしまった。 「蓮華。大丈夫だよ、これは病気じゃないから」 「でも、腫れてるし……い、痛い」 「抜けば元に戻るって」 「ぬっ、抜かないっ! ちんちん抜いたらもっと痛いっ!」  陰茎を引っこ抜かれると勘違いした蓮華が、両手で股間を抑えて体を丸めた。  蓮水はその様を見ながら、この弟は、精神年齢は幼いが、体はしっかり成熟しているのだということを実感した。  恐らく、蓮水の家での生活にも慣れ、気の緩みがでたことで三大欲求のひとつである性欲が無意識に顔を出してきたのかもしれない、と推測する。    蓮水は微笑みながらそっと手を伸ばして、蓮華の短い黒髪を撫でた。 「蓮華。大丈夫だよ、病気じゃない。兄ちゃんが治してあげるから」  蓮水の言葉に蓮華が涙で滲んだ瞳を丸くして、じっと蓮水を凝視してきた。 「ほ、ほんと?」 「うん。本当。蓮華、手を退かせてごらん」    蓮水がそう促すと、蓮華がそろそろと股間から手を離した。  蓮水は彼のズボンのウエストのゴムに手を掛け、太ももまでずり下した。  蓮華が腰を浮かせて、蓮水の動作に協力してくれる。  下着ごと下げて露わになったそこには、隆々としたペニスがしっかりと上を向き、熱く脈打っていて。  蓮水は弟の陰茎に、自身の白い指を絡ませたのだった……。
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