第18話

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第18話

 蓮華(レンゲ)の男性器は、その肉体にふさわしい太さと長さがあった。  蓮水(ハスミ)は指で作った輪っかでそれを(しご)いた。  張り出したエラの部分は瑞々しい色をしており、これを誰にも使ったことがないのだと教えてくるようだった。  しゅ、しゅ、と手を動かすと、蓮華が「ひっ」と息を呑んで腰を揺らせる。  可愛い。  物慣れなさが、可愛い。  そういえば、これまではどうしていたのだろうか?  今回は生理現象での勃起だが……たとえば、女の裸などで興奮したことはなかったのだろうか?  蓮水は弟の処理を手伝いながら、そう考え……そういえば蓮華が居たのはゆうずい邸だったと思い出す。  男ばかりが集う場所なのはゆうずい邸もしずい邸も変わらなかったが、男娼が『雌』の役割を果たすしずい邸とは違い、ゆうずい邸に居るのは抱く側である男娼ばかりだ。  蓮華が男に欲情する気質でないのならば、あそこで性的に刺激されるものは皆無だっただろう。  つまり彼は……。  弟は、精神的にも肉体的にも、まっさらなのだ……。  そのきれいな弟を、兄である蓮水がいま、穢している。  背徳感が、背すじをぞくぞくと這い上がってきた。 「蓮華……いま出させてあげる」  蓮水はそう囁いて、男の股座(またぐら)の間に顔を伏せた。  蓮華がじわりと腰を引く。 「た、食べるの?」    幼い口調が、怯えを孕んで蓮水へと落とされた。  性器を引っこ抜かれるという勘違いがまだ蓮華の中に残っているのだろう。  蓮水は軽く笑うと、上目遣いで弟を見上げた。 「手より、口でした方が、おまえが気持ちいいから」  蓮水は囁くとともに、ちゅ、と亀頭に吸い付いた。 「わぁっ」  蓮華が狼狽えた声を上げる。  口腔内に唾液を溜め、ねっとりと先端を舐め上げると、ビクビクと腰が跳ねた。   蓮水の舌の上に、弟の味がじわじわと広がってゆく。  蓮水は鈴口を舌で穿(ほじ)り、幹の部分は手でこすった。   「う、わっ、あっ、なに、これっ」  蓮華の悲鳴に涙が混じる。 「こ、こわいっ、こわいぃぃ」  初めての感覚なのだろう、蓮華が蓮水のフェラチオを受けながら、泣き出した。  それでも彼の腰の動きは止まらない。  本能のままにカクカクと突き上げてくるから、そのたびに蓮水の喉奥までペニスが潜り込んできた。    一旦口を離すと、太い陰茎は先走りの雫と蓮水の唾液で淫靡に濡れていた。 「蓮華。怖くない。怖くないよ。オレの口に出して」 「やだ。こわいから、やだぁ」 「蓮華。それは怖いじゃなくて、気持ちいい、だよ」 「え?」 「もぞもぞして、お尻が浮きそうになるだろ? 気持ちいいから出したいって、おまえの体が言ってるんだよ」  蓮水は男へとそう教えると、口淫を再開した。    水音を立てながら、逞しいペニスに奉仕する。  淫花廓の男娼として徹底的に口の使い方を仕込まれている蓮水に掛かれば、蓮華などひとたまりもないだろう。  案の定、蓮華はすぐに高みの瞬間を迎えた。  内腿にぐっとちからが入り、蓮華が呻く。 「ああ~っ、あっ、も、もれるぅっ」 「らひて(出して)」  短く応じて、蓮水は深い場所まで牡を咥え込み、喉奥を締めた。    ベッドを軋ませて、蓮華の腰が浮いた。  と思った瞬間、男の大きな手で後頭部を抑えられた。  蓮華にしてみれば闇雲に手を伸ばした先にたまたま蓮水の頭があったから、掴んだけだろう。  けれど蓮水にとってそれはイラマチオにも等しく、奥の奥までを巨根で突かれ、顔を引いて逃れることもできない。 「うあっ、あっ、あっ、で、出ちゃうっ」    蓮華が泣きべその顔をぐしゃぐしゃに歪めながら絶頂に達した。    目いっぱい開いた蓮水の口の中に。  びゅ~、っと勢いよく射精される。  どくどくと溢れてくる精液は濃く、ねっとりとしていた。  蓮水は苦しさを堪えながら、喉を鳴らしてそれを嚥下した。  無意識の動作で蓮水の後ろ髪を掴んでいた男の手が、ずるり、と離れた。   蓮水は口から、弟のペニスを出した。  ちからを失ったそれを、手で支えて。  先端に残った白濁をきれいに舐めとる。  ちゅぱちゅぱと吸っているうちに、蓮華の牡がまた硬度を取り戻していった。  若いな、と蓮水は思った。  蓮水のであった財部(たてべ)正範(まさのり)は高齢で、一度果てると再度勃起するまでに時間を要し……蓮水はその間玩具で責められていたものだ。  いや……七十代の財部と二十四歳の蓮華を比べること自体が馬鹿げているのか。  もう一度抜いたほうがいいだろうか。  硬くなってきた性器を手で包みながら、蓮水は蓮華の様子を伺った。    蓮華は、黒い瞳をとろりと潤ませて、呼吸を整えていた。  精悍な頬を濡らしている涙と、少し垂れている鼻水を、蓮水がパジャマの袖で拭ってやる。  蓮華はその手を、振り払わなかった。    はぁ、はぁ、と広い肩を上下させたまま、蓮華が蓮水と視線を合わせてくる。  未知の快感が彼を法悦に浸らせているのだ。  蓮水は蓮華の表情からそのことを感じ取り、ごくりと喉を鳴らした。 「……れんげ」  掠れた声で弟を呼ぶと、蓮華がスンと鼻を啜る。 「蓮華。気持ち良かった?」  蓮水の問いに、男が無邪気な仕草でこくりと頷いた。   「ああやって射精したら、おちんちんはちゃんと治るから」 「でも、まだ腫れてる」  蓮華が己の下腹部を指さし、首を傾げる。 「ちんちん、治ってない……」  男らしい眉を、情けない風情で垂れ下げて。  蓮水を、縋るように見つめてきた。 「こ、これ、どうしたらいいの? ぼくのちんちん、どうしたらいいの?」     蓮華に、そう尋ねられたそのとき。  蓮水は、身の内に歓喜が走るのを感じた。    蓮華が、蓮水を。  その事実に言い知れぬ喜びを感じた。    再会して以降、蓮水は敵だという認識を改めることのなかった蓮華が。  初めて蓮水とまともに視線を合わせ、初めて会話らしい会話をしてくれている。 「……蓮華。もう一回、してほしい?」 「え?」 「さっきの、もう一回、してほしいか?」    蓮水は蓮華のペニスに指を絡ませながら、問いかけた。  蓮華が迷う素振りで視線を彷徨わせた後、首を縦に振った。 「も、もう一回したら、治る?」 「どうかな。おまえは若いから……でも、あと一回か二回出したら治まると思うよ」 「じゃ、じゃあ、して、ほしい」    蓮華に乞われて、蓮水は微笑んだ。  そして、ふと思い立って、尋ねた。 「蓮華。さっきよりももっと気持ちいいこと、したくない?」 「え?」 「もっと気持ちいいこと。オレなら、できるから」 「ほんと?」 「うん」 「怖くない?」 「怖くないよ」 「じゃあ、する」  こくり。  幼い仕草で頷いた蓮華の短い髪を、蓮水は撫でた。 「ちょっと待ってて。準備してくるから」  蓮水は一旦ベッドから降りると、蓮華の寝室を出た。  なにか適当なものはないかと、自室を漁る。  そうしながら、己の耳の奥で、理性の声を聞いた。    馬鹿、なにをするつもりだ、いますぐやめろ。  がなり立てるそれを、蓮水は首を振ることで振り払う。    蓮華を……。  弟を、蓮水の傍に引き留めるために。  体で縛り付ければいいのだと、蓮水は気付いてしまったから。  性的なことをなにも知らない、まっさらな蓮華の体に。  無知で無垢な蓮華に。  肉欲を、植え付けて。  セックスの気持ち良さを教え込む。  蓮水ならば、それが可能だ。  だって蓮水は……しずい邸の男娼だったのだから……。  蓮華の精神は子どもでも、肉体は成熟している。  性交は充分可能だろうし……快感を覚えれば、必ず蓮水を求めるようになる。  そうすれば、淫花廓に帰ろうなんて気持ちは薄れていくだろうし……。  蓮水を、必要としてくれるかもしれなかった。    正気か、と誰かが言った。  自分の声だった。  蓮水は笑った。  正気なものか、とそう思う。  卑劣な手段だということは、充分にわかっていた。    けれど、蓮華と離れたくない。  蓮華に必要としてほしい。  一方通行ではなく……蓮華からも、同じ熱量の情を、与えられたかった。    弟だぞ。  また声が響いた。  あれは、おまえの弟だぞ、と。  、と蓮水は言い返した。  頭の中で呟いたはずなのに、無意識に音となって漏れていた。  あれは、。 「オレが買ったのは、弟じゃなくて、男娼だ」  喉を震わせて飛び出た言葉が、自身の耳に届く。  蓮水は同じセリフを二度、繰り返した。    まるで自己暗示だ。  そう思うとなんだかおかしくて。  己の滑稽さに唇を歪めた蓮水は、頭が冷えてしまう前にと、急ぎ足での待つ部屋へと戻ったのだった。  
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