小学6年生の負債

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監督と同じく白目を剥きそうな俺の前で、オバちゃんはしゃがんだ。畳の上に転がった俺のホームランボールを拾い上げ、立ち上がって俺の目の前に来る。 「これに、あなたの名前を書きなさい」 「ふえっ……?」 「へ?」とまともに聞くことさえできない俺の目の前に、油性マジックを突きつける。もうそこに準備されていて、絶対に書かせると決めていたようだ。 震える手でそれを受け取ると、オバちゃんは腕を組んで高い所から俺を見下ろした。 「そのサインボールの価値が上がる生き方をしなさい」 ……は? 俺が恐る恐る相手を見上げると、一糸乱れぬお団子頭のオバちゃんはニヤリと口の端を片方上げた。 「あなたが立派な人になった時に、これをオークションで売りましょう。差額もキッチリ返してもらいますからね」 「!」 オバちゃんは顎で促してきた。俺はハッとしてボールを受け取り、出来るだけ綺麗な字でボールの縫い目の間に自分の名前を書いた。 「お、俺、日本一のホームランバッターになります!」 ボールとペンをオバちゃんに返すと、相手は両方とも受け取って、頷いた。 「男に二言はありませんよ」
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