26人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
一番強くて怖い土田さんが、「柏田」と呼ぶ声に体がビクリと震えた。
「タバコ買ってこい」
それはもちろん、俺の小遣いから。いや、それ以上の問題だ。
「……タバコは、未成年だから買えねっす」
震える声でなんとか答えたけど、潰されそうな重い沈黙と二年生たちの視線に息もできなくなりそうだった。
ガタン、と部室の奥で立ち上がる音。
ヤバイ。
嫌な汗が噴き出して、滝のように首に流れた。土田さんの足音が近づいてきて、その手に金属バットが握られる。
ーー殴られる。
「タバコは勘弁してください!」
突然、列の左側に立っていた千葉が大声を上げた。
俺に向かっていた土田さんの足が止まり、部室は上がってしまった俺の息と千葉の呼吸の音だけになった。
足音が俺から離れていく。
そのすぐ後、友達の苦しげな声と殴られる音が部室に響いた。
そうやって続いたイジメは、三年生が引退し、彼らが集団でテレビ局に訴えに行ってくれてから、やっと終わった。
最初のコメントを投稿しよう!