潔いほどの、田中であった

2/7
前へ
/7ページ
次へ
ー―――  間に合わせの船は次々と宇宙の塵と消え、残るは私含めローゲ星人五十体の乗ったペ・ッゴイ・サイサクエ・ゲス号のみと判明したあの期間……  ン・ベリゲー航法とツパ・ッインセリハ睡眠待機とを駆使した末に、ようやく我々の生存に適した惑星を発見し、歓喜に沸いたあの日……    後に知ったことだが、ここの文明では我々の母星ローゲは、彼らの観測可能な宇宙内でも一番、遠い場所だったようだ。  そして住環境が一番近いという点で、私たちとこの地球と名付けられた星との出逢いは、奇跡とも言える巡り合わせの結果であった。    我々ローゲ星人は、母星に文明を築いていた三万年(地球時間に換算)もの間、常に民族同士の争いが絶えることがなかった。  ローゲ星人は元々同じ種族のはずなのに、系統が・宗教が・その他細かい点が違うという理由で他を抑え征服し、自らの属する世界を拡げ高めるためだけに存在する、戦闘的な誇り高き種族として生存してきた。  そんな我々の種族ではあるが、既に、この宇宙空間上には個体としては殆ど残されていない……私と連れ合い、そして私たちの子ども一体のみ。  私の本名は、イーサ・クバレイ・ンャチージオドケ・ダ・ンナャチッイ。  もちろん、今名乗っている夏井伊作は仮の名である。    母星ローゲを襲った隕石群は、数少ない科学者の間では既に数百年前から予言されていた。  しかし、好戦的な政府間の諍いが災いし、それらの見解はまるで、シムズミ(地球上における太陽)の目をみることはなかった。  降り注ぐ隕石群の中、ようやく飛び立った飛行船団の中でも諍いは絶えなかった。  自刃して果てる者、地団太を踏んで当たりちらし、他を傷つけたり命を奪ったりする者、発狂して操縦を誤り、他の船とぶつかって宇宙の藻屑と化す者たち……  ペ・ッゴイ・サイサクエ・ゲス号のヨシー・ド・タデモミ艦長は、我々種族の中でも珍しい、沈着冷静な、しかも遠い先まで見通しのきく優れたコンチ(ひと)であった。  彼はすぐさま、舵をチラア方向に固定し、すぐさまン・ベリゲー航法を使用するよう、機関士に命じた。  その結果、我々の船だけが宇宙に生き延びることができたのだ。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加