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 カケル君先導のもと、瑞希たちが向かったのはチェーンではない個人のお蕎麦屋さんだった。  一切の曇りなく毎日磨かれている様子はあるものの、ガラスのなかディスプレイされている食品サンプルはどれも年季が入っていて、なかでも海老天そばの大きな海老は白く濁っていて、お世辞にも美味しそうには見えなかった。  そんなお店に躊躇うことなく、「ちょっと待ってて」と瑞希たちに言い残し、カケル君は引き戸を開け店内に入っていく。 「知り合いなの?」と瑠美ちゃんに尋ねると、「さぁ?」と首を傾げられた。「でも、カケルは誰とでもすぐ仲良くなれるから」と。  ややあって、カケル君が引き戸を開けて出てきた。指に嵌めた鈴のついたキーホルダーをブンブン振り回しながら、「自転車ゲット」と笑った。  扉が閉まる直前、「今度はちゃんと食いにこいよ!」という頑固そうな、だけど愛情を感じられる声で店主が言った。 「おう」と、一言、たった一言だけで、カケル君が同じものを返していた。
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