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「カケル速ぇえええーーー!」
よく響き渡る声に反射的に窓の方を見ると、薄いピンク色のカーテンがゆらゆらと風に揺れていた。
そこでふと、今朝の教室で交わされていたクラスメイトの会話を思い出す。
口を揃えて皆同じように嫌がる女子や、わかりやすく燃えている体育会系男子。聞こえないふりをしながら趣味の話で盛り上がって守りに入る地味グループの子たち。
彼等が話題にしていた予告どおり、今まさに25mのタイム測定が行われているのだろう。
あの子、カケル君って速いんだ。まぁ、見たまんまといえば、見たまんまだけど。
瑞希はカケル君の背格好がどんな感じだったかを思い浮かべかけたがすぐに面倒になってやめ、四つ折りにして手に持っていたフェイスタオルをそっと開いた。
包まれていたのは、ぼろぼろのイヤフォンをグルグル巻きした音楽プレーヤー。
コードの部分は元の白色が塗り潰されたように黒ずんでいて、中には瑞希の知らない洋楽ばかり入っている。最新曲が一曲も入っていない、既に廃番になっているこれが、だけど瑞希を安全な場所へと誘ってくれる。
コードが絡まらないように気を付けながら解くと、肩まで嫌味な程まっすぐに伸びた髪をよけるように首を傾げて、左右の耳にイヤフォンを嵌める。
ふぅ、と一つ息を吐き、倒れるように枕に顔をうずめると、ゆっくりと目を瞑った。
これでもう、何も見えないし、冷たい夜の水の音も聞こえない。
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