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 瑞希が今暮らしている家は、築60年の木造平屋の一軒家だ。のし瓦は所々ずれているし、玄関の引き戸はかなり重かったりとぼろぼろな家だが、それでもつい最近まで暮らしていた叔父夫婦の家に比べたら、随分と快適だった。   「新しいお茶淹れてくるね」  食べ終えた昼食の洗い物を済ませ、腰を曲げながらゆっくりとリビングにやってきた祖母に声をかける。「私がやるよ」と言う祖母を制して、瑞希は祖母と入れ替わるように台所に向かった。  ありがとうね、と祖母が座布団に腰掛けた様子を見ながら、瑞希はここで暮らす選択をしたのは正解だったな、と思った。  叔父夫婦の家は小さいながらも築年数の新しい、綺麗な二階建ての洋風の家だった。世間体もありやむを得なかったのかもしれないが、腫れ物の瑞希を引き取ってくれたことには少なからず感謝している。  だけど、やっぱり無理があったのだと思う。叔父も叔母も瑞希にどう接したらよいか分からなかったが故なのだろうが、瑞希が過去の記憶を掘り起こさないように、必死で見ないように考えないようにしても、実の息子に対するものとは明らかに違う二人のそのぎこちない態度は、単なる血の繋がり云々だけではなくて、まるで世間から自分がどう見られているかの縮図のようだった。  あの頃、瑞希がもう少し小さければまた状況は違ったかもしれないが、叔父夫婦の家に引き取られた時は、小学五年生だった。何もわからない、悟れない、無邪気な子供ではなかった。
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