僕は惑星に還る

7/8
前へ
/8ページ
次へ
 ねえ君、昨日の夕焼けを覚えているかい。  ピンクとオレンジとパープルのグラデーションが、この世のものとも思えなかっただろう。  やがて群青色の夜がやってきて、季節外れの流星群が一晩流れ続けただろう。  君は無邪気に喜んだけれど、僕は知っていたんだ。  これは惑星からのメッセージ。    僕らのいる、あたたかで安全な洞窟は崖の上にあるだろう。この崖の下が惑星のへそになっている。へその中には煮え立ったマグマが動き続けているんだ。  そう書くと恐ろしいと思うかもしれないが、惑星のへそほど安全な場所はないんだ。だからこそ、僕はこの場所を選んだんだよ。  だけど、昨日の夕焼けは、惑星の中の赤く熱い血潮が破裂して、この世が裂けることを予言していたんだ。  惑星はもう、命を終えようと思っている。  そうなんだ、つまり、もうこの星はなくなってしまおうとしているんだよ。  だけど、僕はどうしても、君には生きていてもらいたいと思った。君と、子供は生きながらえてもらいたい。そして、笑っていてほしい。僕が愛した、空の下、大地の上で、泣いたり喜んだりしながら生きて、無事に一生を終えて欲しい。  惑星には、あとほんの数十年、待ってもらわなくてはならない。  命は一種のエネルギーだから、僕の残りの命を差し出せば、惑星はもうあと僅かに存続するだろう。  こんなちっぽけな僕だけど、巨大な惑星の命と差はないんだよ。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

72人が本棚に入れています
本棚に追加