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2、葬儀屋
アコールソーンは金と暴力がすべてを支配する街だ。良心や施しなんていうものは、持てるものたちの気まぐれなお遊びにすぎない。
細分化された暴力は仲間意識こそ強固だけれど、裏返せば「排他的」の一言で片付いてしまう。
その「ブラックボックス」を分類するなら、フロレンス。
これは無所属共の寄り合いで、つまるところ暴力だけは持ち合わせている幸運な、けれども排他的なファミリーに飽き飽きしている連中の集まりだった。裏切り、結託、何でもありのごろつきの中で、彼らは一際目立っている。
何しろ「葬儀屋」だ。殺し屋でも情報屋でもスパイでもない。今日もジャックしたスピーカーで、時報代わりの宣伝が響く。
「製造販売、処分まで! 死体のことなら何でもお任せ! 見ない、聞かない、話さない!安心安全の葬儀屋ヒヒをどうぞご贔屓に!」
この街で三つ子と言ったら、それは彼らのことだ。
この街で「猿」と言ったら、それは彼らのことだ。
この街で最も有名な余所者。誰もその猿面の下の素顔を知らない、知ってはならぬ黒いツナギ。背中に書かれた「否」の一文字は、彼らのありさまを実によくあらわしていた。
フロレンスには三大派閥など関係がないから、依頼はどこからでも受け付けている。それこそ反マフィアを掲げるスレイジックからだって、仕事をもらう。それを黙認せざるを得ないほど、「葬儀屋ヒヒ」には力があるのだ。
誰が誰を殺したいか、殺すか、殺したか。
そのすべてを彼らは知っている。
アコールソーンで一番大切なことを、彼らは実によく知っているのだった。
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