7、人材募集

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7、人材募集

 幻の発砲音にびくりと目を瞑った孤児を見下ろす。  裏切り者は仮にも聖職者の衣装を不浄で汚して、自分でつくった水たまりの中で呆けている。  エイプリルはここでやっと顔をしかめた。  厄日だ。  恐る恐る少女が目を開く。  銃弾代わりに飛び出したのはアイスピックの先端だ。  近接戦闘を崇めるヘイジェンターでは、マトモな銃はあんまり見かけない。  なかでも一番の変わり種がエイプリルの「玩具」だ。分類としては、仕込みナイフに入るのだろうか。引き金を引くと銃身に仕舞われていた針が伸び、撲殺狙いの組み合いが刺殺を目的にし始める。  少女は改めて息をのむ。 「玩具ですよ」  エイプリルはささやく。 「本物なら発砲なんかするわけないでしょう? あなた、すごく邪魔な位置ですし。片手で撃つなんて反動きついし」  エイプリルはユーモアを愛している。緊張する瞬間……アコールソーンではそれは大概死の直前だが、そんな時のはりつめた糸を緩めることを心地よいものと認識している。  ところがこのジョークは誰の糸を緩めることもなかった。  エイプリルは肩をすくめる。面白くない連中だ。 「こ、こ、ころさないでくれるの?」  少女がおずおずと見上げてくる。卑屈で、かすかで、懐かしい無様な笑顔もどきだった。フェイクの、大方薄っぺらい理由による苦い視線を横顔に感じながら、エイプリルは尋ねてみる。 「殺さないで欲しいんですか?」 「うん……じゃな、くて、はい」 「誰を?」 「え、あの、だから、シスターを」 「じゃあ殺せ」  エイプリルは、涙と疑問符が浮かんだ幼い瞳を覗きこむ。  オスローがいつか振る舞ってくれた紅茶の沈殿を思い出す。溶けた砂糖が歪んでいた。溶けなかった分が底にこびりついていた。甘かった。 「殺されたくないならお前が殺せ。この女は死ぬ。今日、ここで、死ぬ。それは揺るがない。私に殺すなと言うのなら、お前が殺せ」 「おいエイプリル……」 「できないならお前も殺す」  紅茶色の瞳が絶望に揺らめく。フェイクの非難はたぶん真っ当だ。だがエイプリルは知っている。こんな状況で、こういう中途半端な底辺にいる人間が何を考えるのかよくわかっている。  揺らめくということは、迷っているということだ。  何に迷っているか。  自分の命と他人の命を秤にかけている。  そこで他人を生かせるほど「死んでいる」なら、エイプリルは一つ提案することができる。鼠ごときに自分の命を投げ棄てられる精神を、欲しがってやまない人間が街には溢れているのだ。たとえば、エイプリルの恩人だとか。  「生きている」なら、この子どもの命運は尽きる。  フェイクや他のユーモアのない屑がどれだけ残酷だと咎めたところで、エイプリルの意志を曲げることはできない。  エイプリルは裏切り者を殺すために来たのだ。  ヘイジェンター傘下で随分いい思いをしたくせに、勝手に子どもを売り払って小銭を稼ぎやがったこそ泥に、これ以上息をさせるわけにはいかない。そしてこの餓鬼が自分一人生き残るつもりでいたとしたら、それは鼠の予備軍だ。一回裏切ったやつは何度だって裏切る。子どもは資源だ。莫大な金を動かす新素材、ジルコニックとは比べるべくもないが、資源であることに変わりはない。雇われた大人はすぐに裏切るが、躾られた子どもはなかなか裏切れない。そういうものはあるだけあっていい。少なくなって不便することはあるけれど、多くても困らないものだ。  果たして少女は口を開いた。  エイプリルは微笑み、「玩具」を思いきり振りかぶった。
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