私にとって最高の出会いは……

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 私、姫野司(ひめのつかさ)は昔から人と上手く話せる方では無かったと思う。  小学校は親しい友人という友人は殆どおらず1人で教室にいる事が多かった。  特に男の子と話す事が大の苦手であり、前髪で目を隠す様な髪型だった為クラスの男子からは揶揄われたりもした。  そんな私の唯一の楽しみは家に帰ってプラモデルを作る事だった。  女の子なのに、プラモデル作るなんて変な子って言う子達も居たけど私にとってコレは唯一自分を出せる楽しみだった。 「うん。今日はコレを作ろ。」  そんな独り言を呟きながら紙でできた箱を開ける。  キッカケはお父さんが作っていた所を幼稚園の頃からずっと眺めていたからだろう。  その光景にのめり込むようにハマっていき、すっかり私もプラモデラーだ。 「うん。出来た。」  一時間ほどで完成されたプラモデルをマジマジと眺めながら、何度も頷く。  主役機と言うより量産機の方が私の好みに合っており同じ機体を何体も作っては飾っている。  きっと私はずっとこのままなんだろうな。  そう心の何処かで思いながらプラモデルを眺めている私は、その後中学校に上がっても変わらない生活を日々送って居た。  でも少し違うのは、親友が2人も出来た事だ。 「ほら司。行くですよ?」 「ほれほれ司。遅いよー?」  私より少し背が低くジト目がチャームポイントの子がユミこと、南瀬由美(みなみせゆみ)。  もう1人の眼鏡をかけた背は私より少し高い子がパルこと小山田ハルナ《おやまだはるな》。  キッカケは私が教室で読んで居た模型雑誌に目がいったユミが話しかけてきてくれたのが始まりで、そこから話が合っていき今ではすっかり仲良しになった。  パルともユミと小学校の頃からの友人であった為か一緒にいる事が多くなり今では3人ともすっかり仲良しさん。 「ま、待ってよー。」  運動が苦手で走るのも得意じゃ無い私は2人の後をパタパタと小走りに追いかけて行くのが精一杯で、いつも2人の後ろばかりを付いていったなぁ。  でも、私にとってそれは何より楽しかった。 「そういえば司。高校はどうするです?」 「え?高校かぁ……。」  あっという間に時間は流れて行くよね。  私たちも中学3年生。  ユミの言う通り、私も高校への進路を考えなきゃいけない時期になってきた。 「司の学力なら明倭(めいわ)へ行けるですよ?」 「明倭かぁ……。」  ユミの口から出てきた明倭と言う名前。  正式名称は静岡明倭高校(しずおかめいわこうこう)と言って県内ではトップレベルの頭の良い高校。  おまけに運動部も盛んで、野球部はこ、こうし……えん?へ出場をずっとしている文武両道の高校です。 「んー……ユミとパルは?」  正直な所悩んで居たのは事実でした。  学校の進路指導の先生からも明倭を勧められたし、私自身も家から近い方だから良いかな?とは思ってたんだけど…… 「私は勉強できないので、それなりの所へ行くです。」 「私は家から近い方が良いかなって。」  もし明倭へ進学したら。  ユミやパルと離れ離れになってしまう。  その不安の方が私にとって一番心苦しく耐え難い事です。 「それならさ、私行きたい学校があるんだけど……。」  実はと言うと、私なりに色々調べてみたんだけど1つ気になった学校があったのを2人に話をする事に決めました。 「何処です?」 「この、静岡聖陵学院(しずおかせいりょうがくいん)って所なんだけど。」  自分のスマフォを取り出しHPを2人に見せると、2人は少し間を空けて私の顔を見てきた。 「え?司の家から結構離れてるですよ?」 「でも2人の家からは中間くらいでしょ?」 「そりゃそうだけどさ。司、あんた良いの?この学校、進学校ではあるけどそう大したレベルじゃ……。」 「良いの……!!」  ユミやパルの話を遮るように大きな言葉を放ってしまう。  自分がこんな大きな声を出せるんだ?!なんて思ってしまいながらも、そのまま私は話を続ける。 「良いのココで。むしろココが良いの。」 「その理由は?」 「だって……。」  続きの一言が言えない。  でも、私は全てを出し切るように声に出した。 「2人と一緒の所が良いの。どんなに頭のいい学校へ行っても。2人と離れ離れになる事の方が一番辛い。だから、この聖陵学院に行きたいと思ったの。」  言いたかった事が言えた。  私は恐る恐る2人の顔を確認すると、2人は最初は少し驚いた様な表情を見せながらも互いに顔を見合わせ笑みを零し合うのを見れた。 「仕方ないですね司は。私の学力でも行けそうですので、勉強するです。」 「しょうがないなぁ司は。まぁでも日本平の方で上の方にある学校みたいだし?環境は良さそうねー。」  その言葉に、私は涙が止まらなかった。  ポロポロと溢す泣き顔の私のユミとパルの2人は笑いながらハンカチで拭いてくれた。  本当にこの2人と友人になれて良かった。  私は心の奥からそう感じ、感謝しました。 「高校と言えばさ。そろそろ良い出会いもあるんじゃ無い?殿方と。」 「えぇ?!無い無い!無いよー!!」 「パル。それは無いですよ。無い。」  ニシシと笑みを見せながら話すパルの言葉に私は顔を赤くしながら手をブンブンと横に振りながら拒絶する。  隣のパルも相変わらずにジト目で否定をしている。 「まぁ無いかぁ。そんな漫画みたいに上手くはいかないわよねぇ。」 「そうだよパルー。」 「私たちの様な女に声を掛ける男性なんて居ないですよ。」  男の人に声を掛けられる。  そんな事が起こるわけがない。  私はそう自分に言い聞かせる様にパルの言葉に対し全力で否定し続けた。  こんな教室で1人模型雑誌を読みふけって、暗い女なんて……誰も声なんか掛けないよ。  私はそう自分に言い聞かせた。 (高校生活も。中学と変わらずユミとパルの2人で過ごすんだ。それが一番良いよ。)  そしてあっという間に冬が過ぎ去り春になった。  新しい制服に身を包まれながら新たな学び舎である静岡聖陵学院へと入学を決める事になった。  もちろんユミとパルも一緒。  中学と変わらぬいつも通りの高校三年間が始まるんだ。  案の定、ユミとパル以外に仲良くなれそうにも無いなぁ。  入学して暫く経ったけど特に何も無いし。 (さてと、今月の最新号でも読んで休み時間を潰そうっと。)  今月発売された最新号の模型雑誌を開きながら集中をする。  黙々と私が読んで居たのが悪かったのだろうか、いつの間にか誰かが私の雑誌の背表紙を眺めているのが見えた。 「……へ?」  背表紙をマジマジと見つめるのは男子生徒だった。  短髪の髪の毛に顔立ちは幼く見えるその男子生徒に対して、私はこれ以上に無い位に動揺を見せながら顔を赤くしてしまった。 「やっぱり!これホ○ージャ○ンでしょ!?好きなの?」 「ふぇ……あ、えぇ!?」  心臓がバクバクと鳴り響く。  男子生徒の質問に私はどう答えて良いかわからずパニック状態になっているのを、その男子生徒は慌てている。 「あ!ゴメンいきなり話しかけちゃって!」  慌てて謝る男子生徒の顔を見ると、二パッと屈託の無い笑顔を見せてくれた。  その瞬間、私は彼の目に吸い込まれる様な感覚を覚えてしまいました。 「俺もさ、それ好きなんだよね!今度見せてよ。」 「ふぇ。あの、良いです……よ?」 「ありがとう。えっと、俺は横山俊哉(よこやまとしや)って言うんだ。君は?」 「あの。私は、姫野……司です。」 「姫野司さん。よろしくね。」  自己紹介を済ませて最後に見せた横山俊哉さんの笑顔に、私は一瞬で引き込まれてしまった。  横山俊哉さんの口から発せられる言葉の響きに、どことなく安心をしている私が居た。  入学から約一週間のこの日に出会った男子生徒。  横山俊哉さんとの出会いは、私のこの高校生活が一気にガラリと変わるものだった。  この人との出会いが、この高校三年間を更に充実してくれる。  この時はまだそんなには感じなかったけど、今思えば最高の三年間だった。  そう私は感じます。  ありがとう。  あなたに出会えた事。  それが一番の宝物になりました。  そして……。  これからも、よろしくお願いします。  俊哉さん。  ー終わりー
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