逃走生活

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 また、“あいつ”が来た。  逃げなきゃ。逃げなきゃ。  早く、速く、あいつが来ないところまで。 「ほら、急いで! 逃げるのよ!」 「ママ、待って、こわいよっ」 「急げ! 見つかるぞ!」  ボクはママに言われて、足がすくんでいるオトウトの背を押して先へと促す。  家族みんなでただただ、走る。行き先も知らぬまま。  体が草木で傷だらけになっても、痛がってる暇なんかないんだ。  ボクらはいつも、あいつに追われている。  ボクらが何をした? 何もしてない。  どうしてあいつは追いかけてくる? どこまで逃げても、必ずあいつはボクらを見つけては追ってくる。  にやにや、ニヤニヤ、不気味に笑いながら。  いつも理由も分からず追いかけられて、言われるがままに逃げる。  生まれたときからずっとこんな生活で、安心して眠るなんてこと、したことない。  小さな音すらも敏感に聞き取って、慌ててそこから逃げると、その音を聞いてあいつが足を早めて追ってくる。
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