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「誰がわかるか!!」
気付けば、俺はスマホを叩き付けていた。怒りの中で僅かながらに残された理性が働いて、スマホは隣の座布団の上にある。
今、うどん屋中の客の視線を集めた俺は愛想笑いで謝ってスマホを拾った。
スマホの画面を見て、溜め息を吐く。
当然ながら俺は持ち家なんてない。むしろ、持ち家がある人間でこんなのに騙される奴いるのか? ――一応通報しとこう。
俺は訳あって、という大層なものではなく明日のご飯――もっと厳密に言えば趣味であるお馬さんのためにお金が必要で、クラウドソーシングサイトを見ていたのだが。
「ほぼ怪しそうな奴しかねえじゃねーか」
全く、誰だよ。ここで簡単に儲けられるとか言ってた奴。
俺は感情に任せて残っていたおにぎりを口の中に詰め込んだ。
米を細かく咀嚼して飲み込んだあと、後悔する。一応、お皿におにぎりが乗っていたからこのうどん屋に居ることが出来たのに、食べたら出て行くしかないじゃん……。
「何度も言ってますよね? 一度挑戦して成功された方の再挑戦は禁止してます!!」
渋々、座敷から降りようとしたとき、うどん屋の娘さんの怒声が響いてきた。店の出入口で怒っている。相手は外にいるので見れない。
「でも、そんなことはどこにも……」
「書いてなくても規則は規則です!」
相手の声はか細い。どうやら子どものようだった。
「ツツジちゃん、どうしたの?」
興味本位で首を突っ込んでみる。そこには小学生くらいの兄弟が涙目で立っていた。
「この子達がまた大食いチャレンジに挑戦したいって言って聞かなくて」
「あー」
これはまた典型的な迷惑な要求だ。おにぎり一個で一時間粘る俺とどっちが迷惑なのだろうか。
そう考えながら、俺を少し怯えているその兄弟を一瞥する。子どもに交渉役をさせる向こうの方がどう考えても上だろう。
「後からお父さんでも来るのかな?」
「いやいや、小杉原さん。この子が成功させたんですよ」
「えっ?」
「こっちの弟さんの方が、ね?」
ツツジちゃんがそう目配せをする。兄弟はこくりと頷いた。
「――嘘でしょ? からかわないでよ」
このうどん屋の大食いチャレンジは丼物だ。カツ丼や親子丼、牛丼、天丼を纏めて二倍の量を盛った集合体で大人でも完食した人間を見たことがない。
俺の言葉にすぐにツツジちゃんは「あはは、冗談ですよー」って吹き出すと思っていたけれど、そんなことはなく「いえ、本当です」と真剣な表情をしている。
俺は兄弟の方を見る。何故か兄弟は後退りをした。
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