美味しい方へ

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「カモって……」  そう言いながら、周りを見る。何処と無く生気がないように感じた。 「ここにいる人間の殆どは騙されてもいいと思って希望を買っているから。何も変わらない明日より何か変わるかもしれない明日を生きる方がずっと良いと思って」  なんとなく大神の目が「な、いいカモだろ?」と言っているように感じた。 「小杉原がやるなら商品を買ってやってもいいよ」  そうあっさりと言う姿に、俺は会員じゃないのかという疑問だけが沸いた。 「小杉原は頭にリミッター掛け過ぎてるんだよ。今だって俺の提案に飛び付かずに戸惑っている」  迷うなっていう方が無茶苦茶だ。そう言い掛けたけど堪える。 「あの兄弟だってお前がやっているこに薄々気付いていて、それでもいいと思っているんじゃないのか」  そこから続いた大神の言葉に心臓が停まりかけた。兄弟が察している可能性を考えていなかった。 「だから、向こうが勝手に離れるまでお前は気にせずに」 「そういうのってとても不健康だと思う」  俺は大神の言葉を遮り「だから、俺はいい」と伝えた。  大神は大きく溜め息を吐く。 「だったら、最初からそそのかすことするなよ」  大神に頭を軽く小突かれて、痛かったけどなんだかおかしかった。軽くとはいえ誰かに叱られて、気持ちがすっきりとしたのがわかった。 「ありがとう。俺、帰るから。パーティー代払うんだっけ?」  俺はさっさとパーティー会場を後にする。恐らくもう二度と来ることはないだろう。  大神は呆れた表情で俺に手を振る。 「そのリミッター、一銭の価値にもならないのにな」  大神が小さくそんなことを言っていることを知らずに、俺は手を振り返した。  いつもの待ち合わせのうどん屋で俺は兄弟と向き合っていた。兄のヨネも弟のイナもとても不思議そうな顔をしている。 「その、二人に謝らないといけないことがあるんだ」  俺は大きく深呼吸をする。 「広告収入の全額渡したって言ったけど、それ大嘘でした。ごめんなさい」  そう目一杯頭を下げた。  顔を上げたとき、二人がどんな顔をしているかはわからない。  どんな結果になっても自分がした選択の結果だ。許されなくても受け入れるしかない。  俺たちは色んな場所で色んな選択を強いられている。それは知らずに自分や誰かを破滅に導くものだったり、何かを捨てなきゃいけないものだったり様々な選択が絶え間なくやってくる。  ただ、どんなときもきっと明日のご飯が少しでも美味しく食べられる方が正解だと俺は思う。現時点ではただの自己満足な謝罪で俺は少し身体が軽くなりちょっとだけ空腹を感じることが出来た。
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