閻魔大王

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閻魔大王

 二刻ほど経った頃だろうか。雪景色から一人の男がどこともなく現れて少女の肩を揺らして語りかける。 「君、起きて!そんなところで寝ていたら犬死にすることになるよ。まあ、ボクには君が人だろうが犬だろうが、大差ないんだけどね」  少女が目を覚ますと、目の前にはメラメラと燃え上がるような炎と、光が届かないような暗闇に似た色の漆黒の羽が所々にちりばめられた道服に身を包んだ男が立っていた。手には服と同じ真っ黒で塗られた扇子を持ち、頭には幞頭をのせ、笑顔を浮かべている。雪山には不向きの服装だが、寒くはないのだろう。  少女が彼を見て言葉を失っているのもお構いなしに、言葉を紡ぐ。 「ボクは閻魔、地獄からたまたま君を見つけたんだ。助けを求める神に目を向けられる所か、死を司る閻魔に先に目をつけられるって面白いよね~それにしても人間はまだ生け贄なんてやってるんだね。誰かを犠牲にして生き延びようだなんて、醜いなーでもそのお陰で君はボクに会えたわけだけどね」  饒舌に語る男に対して、少女は一言も言葉を発しない。それは初対面の少女に対してよどみなくしゃべる男に呆気をとられているからか、それとも寒くて言葉を発することができないからなのか定かではない。ただ少女が分かったことは、このよくしゃべる男が偉大な閻魔大王だということである。 「君は今さ、神への供物として差し出されているわけだけどどうされたい?バキバキと骨を噛み砕かれて食べられたい?見向きをされず、そのまま見捨てられて朽ち果てたい?それとも自分を犠牲にして生き延びようとした奴らに復讐でもしてみようか?」  状態はまな板の上の鯉。差し詰め、皿に盛り付けられた少女といったところだろうか。食器でもてあそばれて、暇つぶしの道具としていじくられているようにも映る。  少女はといえば未だに言葉を発することなく、男の顔をジッと見つめ続けている。表情からは恐怖の色は感じられず、何を考えているか推し量ることはできない。ずっと笑みを浮かべて表情を崩さない男からも何も読み取ることができないが。
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