Home Sweet Home

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 不意に僕は、今回の旅行で出会った父の兄の友人の表情を思い出した。最後に見せた、あのどこか寂しそうな顔。しかし、故郷を紹介してくれた時の彼の明るい笑顔は、鮮明に僕の心に焼きついている。「愛する場所にいられるっていうのもまた幸せなことなんだ」同僚の言葉が頭をよぎる。「それでも遠くへ行こうと思えるのは、何かを変えたいと、強く思うからだろう?」父の言葉が心に響く。何か思う所はあるのかもしれないけれど、あの場所に留まっている彼はその選択を後悔することはないだろう。僕がここへ来たことに後悔していないように。彼の楽園はあの場所だ。僕の楽園はここだ。その選択に、一体誰が口を挟めるだろう?  ここにいていいのか。遠くへ行くべきか。それを決めるのは何時だって自分自身だ。自分の楽園はここだと。完璧な場所も正しい選択も、そんなものは世界のどこにもないのだから。  スタジオに帰ろうと歩く僕の背を、故郷の暖かい太陽が優しく押した。
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