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某市、園城本邸――
重厚な作りの扉の前、ボーイに付き添われた年若い青年がノックをして部屋に入った。
「只今、戻りました……父さん」
父親の傍には向かわないで、扉から入ってすぐの小さなスモークグリーンのチェアに青年は座った。
ゆらゆら揺れるチェアを楽しみながら父親の方に顔を向くと、黒髪の少し長めの前髪は涼し気な瞳をサラッと隠くすので、片手で髪を掻きあげた。
「うむ。どうだ、自分の家に3年ぶりに戻った感想は?」
「変わりないですね」
「やはり自分の生まれた家というのは良いだろう?――宮雨」
「理玖兄さんはまだ仕事ですか?お世話になっておいて暫く挨拶もしてなかったけど……」
「アイツの名前は出すな。急遽お前を呼んだのは園城家の次期総当主として「嫌です」の責務を果たし……おぃ私の話を聞け!」
第一リビングの室内はライトグレーの壁にチャコールの壁画、広々としたイタリア製の高級L字スタイルのソファに座る園城家総当主、上之助。
彼は長い脚を優雅に組んで手にはワインのグラスを持つが、三男の宮雨を怒鳴った勢いで滴り零す。
傍にはボーイが駆け寄りソファには染み一つ作らなかった。
「嫌だと言ったんです。そんなことだろうと思ってましたけど俺は父さんの意にそぐえるような器ではありませんし、それに理玖兄さんに差しおいて父さんの跡目を継ぐことなんてしたくありません」
「理玖は勘当したぞ。次期総当主云々はさて置き、お前にはやってもらわねばならない事がある」
「は?理玖兄さんに感動した?何があったんです?」
「……忌々しいがアイツは勝手に嫁を貰った。そりゃあ勘当するだろう」
「へぇ、本当ですか?確かにあの堅物兄さんが恋愛するって意味合いでは感動する話ですね」
「ふん、相手というのが……まぁ、それよりもお前には正規に嫁を迎える準備をしている。うまい具合にΩが…コホン、古い友人で借りを作られ…いや、見合いをしてみようと思っている。」
「そろそろ電車の時間になるのでこれで失礼します。花月(かげつ)から説得されたので、しょうがなく顔を伺っただけですので……では」
チェアから降りると宮雨は踵を返して扉に向かおうと足を進めた。
「宮雨!こら待てまだ話し――っ!!」
その背後をボーイは追いかけた。
「はぁ……アイツは誰に似たのか融通が利かないのが欠点だ。まぁ連れも同じだからしょうがないのだが……理玖があんな事を起こさなければ……。」
高校3年生である末息子の宮雨は、思春期なりの気難しく話が噛み合っていないことも多々不満があれど、三男に思いを馳せる総当主であった。
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