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園城家に訪問する日は指定されているのに、善は急げと無視して送り出された。
高校は諸事情で休学する旨を先生に伝えたけれど、母さんの調子じゃ退学届けを受理させそう……。
縁談は失敗は出来なって事か……体全体に重たいものが圧し掛かってきてる。
俺は男だけど人生に於いてはΩ性ってことで「俺をお嫁さんにしてください」って言わなければならないんだ……はぁ…棒読みにならなければ良いけど……。
飛行機と電車を乗り継いでの長旅で辿り着いたのは、割といや…かなり田舎で森を開拓したような広大な敷地、まるで城門のような高い塀がぐるりと囲んでいて遠くに城のような尖がった梁が見えた。
な、なんか歴史掛かったお屋敷のようでビビる。
タクシーから伺えたのは、門前の表札に『園城』と彫刻刀で彫ってあって、今日からお世話になるであろう園城家――に、間違いなかった。
一度タクシーから降りてインターホンを押した。
暫く待って『はい、園城でございますがどちら様でございましょう』と品の良い男性の声がした。
ジーっと電子音が聞こえるので防犯カメラが設置されてる。
「野村瀬那ですけど……」
『野村様。して、どのようなご用件でしょうか』
縁談の話は通じてないのか、それとも役割が違うのかな?
用件かぁ……明白に「嫁に来た」と伝えたら逆に追い帰されそうなので一瞬考えてから「花嫁見習いに来ました」と言った。
母さんに封筒を持たされたのでつい、そう口走った。
なのに、品の良い男性は家政婦見習いとかと勘違いしたのか「家政婦さんでしたか、少々お待ちください」と有無も言わせずに連絡は切れて大きな門が豪快な音を立てて開き始める。
俺は慌てて待たせていたタクシーに駆け込んだ。
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