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高層の窓から映る大いなる海原と雄大な山脈を見渡すことが出来る生徒会室では、軽やかなタイピングの音がしている。
内には今現在、学園生での間でライバル視として君臨している二人だが、お茶と相して親しく会話に弾んでいた。
その一人、生徒会長である西成冬揮が窓の脇にあるベンチに紅茶を口にして腰掛けるライバルに、先ほどまでと違う少し重みのある声を発した。
「それで、久しぶりに本邸に戻ってどうだった。ゆっくり寛いで来たのか 」
「いや……別に挨拶程度に父に会って来ただけだよ、すぐ戻ったろ?」
「見合い話をされただろ? 」
「良くわかってるね。俺のところの会話なんて、いつ戻るんだ、お前が家督を継げ…そして、こちらで選んだΩの嫁を貰え――が付け加えられただけで、顔を見合わせれば始まる会話だよ。それしかない、あの人は相変わらず勝手なんだ。それで兄ともギクシャクしていると言うのに」
「血統在りきの厳格な園城家だからな、心労が溜まるのはわかるが……。それにしても選抜されてのオメガか……高級オークションにでも出るような上玉そうだな」
「それこそ冗談ではない。アルファが誰もがオメガを娶るなんて思い込みは恥じるべきだ……俺は正統に恋愛をして結婚を考えている、オメガだけが種じゃない」
「フ…すまないね、オレはそんなアルファの楔を地でいってオメガと番を結んだ一人だが?」
生徒会長は今まで手元のノートパソコンを打っていた指は休めて、机に置かれたコーヒーを口に啜ると細く笑う。
「君のところも決められた縁談の話に反故して、猛反対する親の前で番の噛み傷を見せて黙らせたんだろ?……俺は冬揮の行為は素晴らしいと思うよ」
生徒会長は眼鏡のブリッジを親指と人差し指で支え、高層の窓から眺めている相棒に軽く溜息を吐く。
「シロ……もう一度言うが逃げるは勝ちじゃないぞ?」
「……」
まだ、それは答えることは出来なかった。
生家からは既に逃げられないのだと実感はある。しかし、自らの運命は変えて見せたいとも思っていた。
大きく圧し掛かる大家の呪縛。その血筋に。
3年間の自由としての猶予を得たが、今後は父は自分の決めたことは必ず成し遂げようとする。家督に関わる事なら必然だ……。それはどんな手を使って来るかわからないが、あの家から遠く離れた私立王醒学園(通称 王学)まで手を差し伸べて来ることはあり得る。
園城家三男である園城宮雨は憂鬱そうに顔を歪ませた。
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