呵々《からから》と骸骨

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呵々《からから》と骸骨

一体、誰が愛すでしょう。 骨と皮だけになった私を。 一体誰が愛すのでしょう。 何一つ与えられない私を。 時々夢に見ることはある。 けれどそれは叶わぬ夢だ。 遠い遠い幻想の日だ。 暖かさは骨にすり抜けてゆく。 いっそ太ってみようかと思う。 重みで骨が動けない。 笑みを貼り付けて言ってみる。 「骸骨と踊りませんか?」 警邏に通報された。 骸骨仲間を探してみる。 皆墓の下で死んでいた。 縄で頸をくくり自死をこころみる。 散逸した骨を拾い集めるのに1日無駄にした。 化生の1日はかくも長い。 人に嫌われて それは彼が悪いということはなく 人が悪いということはなく ただ人と骸骨の棲むところが違うが故。 彼もかつては人であった。 けれどもそれは かつての話。 今や彼は不細工すぎる。 人に交わるには不細工すぎるのだ。 時折彼とて人と話す。 カタカタと軽む顎に 着物の似合わぬ白骨、 暖かさに裂けそうになる。 こんなにも優しい彼らに こんなにも優しい彼らの温かさに 感じいれぬ己の心のさもしさよ。 体が壊れねば心が壊れてくれぬ 心が壊れねば人には成れぬ。 こわれぬ心の欲深さゆえに 私はひとにはなりきれなかった 今宵月夜がきれいでしょうから、花見の酒を飲みたく思う。 花落ちてうつる水面に通して見えるは自分の顔と知っていながら、 他人の顔を望む。 いや、のぞんでは居無いのだ。 ひとりに生まれたからにはひとり、捨て置いてくれというそういうのぞみだ。 ひとの目に映る自分を正視するに堪えず 酒に映る自分の温さに浸る そういう生き方は醜さ以外の何だろう? けれど頭を垂れて思うのは、ここにだって人生はあること ひとの願う美しさでなくても 醜さに私は地を張った うつろうつろと消えてく意識の中で 私は少し満足した 吹きすさぶ温かな夜風の中でからからと骸骨がゆれていた。 骨は人体の一部であるときしむ重さはそう告げていた。 浮かぶ髑髏に人の手に
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