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プロローグ
「なにが原因だって?」
「あー、なんかタバコの火の不始末って、さっき消防の人が言ってましたよ」
「マジ? こんな日曜の夜中に外に出させやがって、ふざけんなって」
ガヤガヤとした中、目の前でマンションの住人たちがぼやいている。
10月に入り、夜はだいぶ寒くなってきたというのに、彼らは裸足にサンダルだ。
8階建てのマンション。
すでに就寝していると、警報器の音で目が覚めた。
なんとなく変な匂いがして窓から下を覗くと、すでに外へ出ている住人たちが数人、そしてちょうど駐車場に入ってきた消防車が目に入り、慌てて家着にカーディガンを羽織って階段をおり、外へ出てきたところだ。
すでに鎮火したのだろう、消防の人たちが数人部屋から出てきて、なにやら会話をしている様子だ。彼らが出入りしているのは、3階の305号室。
「あぁ、よかった。たいしたことないみたいで」
隣から聞こえた鈴を鳴らしたような声に、私は視線を向けた。独り言かと思ったら、彼女はしっかり私の方を見ていた。
「そうね」
敬語を使わなかったのは、彼女は見るからに若かったからだ。下手したら10代に見える。
でも、おかしくはないか。なぜなら、このマンションはひとり暮らし用の1LDK。周辺には専門学校も大学もある。
そう思って改めて、外へ出てきている住人たちを見回した。
みんな家着やパジャマだから定かではないけれど、社会人から学生までが入りまじっているようだ。中には40代か50代くらいの男の人もいる。この人たちと住処である建物を共有していたのかと、なんだか不思議な気持ちだ。
「あのぉ、何階にお住まいなんですか?」
「……6階だけど」
「えぇっ! 私も6階なんですよー。605です」
「…………あんまり大きな声で言わないほうがいいと思うよ」
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