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【605号室 野瀬川 穂乃(のせがわ ほの)】
「穂乃ちゃんは、将来どういう人と結婚するのかな?」
「うんとね、経済力と包容力と常識があって、あと……レディーファーストな人!」
「あ……ハハ、すごいね、9歳なのに」
「うん。お母さんが見てた雑誌をこっそり見たらね、書いてあったの。あとね、女の子は若くて可愛いうちに、素敵なおじさまをゲットしたほうがいいんだって。先生も早いほうがいいよ、結婚。行き遅れたら、寂しいトシフエっていうやつになるんだって」
「トシフエ?」
「あ、違った! トシマだった、年増!」
「う……ん。穂乃ちゃん、いろんな言葉を知ってるのね」
「そうよ。今からお勉強頑張って、いい大学に行って、いい会社に入って、いいおじさまと出会って結婚するの。それが幸せなの」
「おじさま……って。それじゃあ、穂乃ちゃんは年上がいいのかな?」
「うん。10歳以上離れてたら甘えさせてくれるって、その雑誌に書いてあった」
「そっかぁ……。でもね、穂乃ちゃん」
「あ、先生。私、今日はピアノのおけいこがあるの。さようなら」
小学生の私はそこで話を切ったけれど、ちゃんと“でもね”の続きを知っていた。
お母さんにも言われたからだ。
『自分がいいなって思う人、自分に合う人が一番なんだよ』
でも、それなら、自分が求める条件を満たした上で、いいなって思う人を見つければ完璧ってことでしょ?
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