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《605号室 番外編》
「美紅ちゃん、彼氏いるの?」
「コップ空いてるよ。あ、そうか、まだ飲めないからジュースだったね。え? オレンジ? かわいーね」
新歓コンパは4月の終わりにあった。
といっても、新入生でシーカ部に入ったのは、幽霊部員の4年の男先輩ふたりに絡まれている美紅ちゃんだけ。
今日は、特別に葉月先輩も来てくれて、私と牧くんとトペ先輩も合わせて、7人で鳥船長に来ている。
ふたつのテーブルをくっつけたこちら側は、私と牧くんと葉月先輩の3人。
トペ先輩もいたのだけれど、あちらのテーブルに見兼ねて美紅ちゃんに助け舟を出しに向かったところだ。
「いいぞ、戸曽田部長」と微笑んだ葉月先輩は、カンパリソーダをひと口飲んだ後で、こちらへ視線を戻し、口を開く。
「ねぇねぇ、ところであれから付き合ってるんだよね? おふたり。どんな感じ?」
「どんな感じって……」
ちらりと隣に座る牧くんを見ると、彼はビールを飲んで、
「……苦」
と眉間にシワを寄せてる。
彼は今月のはじめにハタチになったので、今日はお酒を勧められて飲んでいる。
「牧くん、デレることあるの?」
「……いやぁ……」
「じゃあ、穂乃ちゃんが甘える感じ?」
「そ、それも……なかなか……」
恥ずかしくてごにょごにょ言うと、牧くんが、
「押したら身構えて、引いたら拗ねての繰り返しです」
と言った。
「ちょっと、何それ」
「ホントのことでしょ」
牧くんを叩こうとすると簡単に手首を取られ、間近でじっと見下ろされる。
そうするとカッと顔が赤くなって、勢いを封じ込められたようにしゅんと俯いてしまう。
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