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──自分は、なんて価値のない生き物だろう。そう思うことがある。今がそうだ。
──とにかく努力した。認めてもらいたいから。そうするしか、自分が存在していい理由がないから。
紙切れ一枚に赤いペンで書かれた丸とバツだけが、自分を評価するただひとつの指針だ。
…だから、頑張った。頑張って、いつもバツひとつない戦利品を携えて、誇らしげに帰路に着く。
「──生意気なんだよ」
──ああ、なんて価値のない生き物なんだろう。こうして水を頭から被って、持ち物を取り上げられて、足蹴にされているのに。
「気持ち悪ぃ。なんで黙ってんだよ」
…どうして、反論できないのだろう。どうして、彼らが怒っているのかを理解できないのだろう。
もしかして、自分は壊れているのだろうか。部品が足りない、欠陥品だからなのだろうか。
「……くそっ、だったら──」
リーダーとおぼしき子が、いやに焦ったふうで、頭目掛けて何かを振り翳そうとする。
それは腕よりも長くて、固そうな棒だ。周りが制止するけれど、そんなのお構い無しと言わんばかりに振り下ろされる。
頭がカチ割られる、そう幻視した次の瞬間には、その子は逆方向にふっ飛んでいた。
どこから現れたのかわからないけれど、目の前にいるグループとは別の子が、勢いよく蹴りを叩き込んでいたのだ。
「……何、してんだ」
「は?」
「何してんだ、って聞いてんだァアあ!!」
──それから巻き起こる乱闘騒ぎを、ただただ眺めていた。蹴りを入れた子は、少しばかり華奢で、お世辞にも喧嘩は強い方じゃなかった。
あっという間に追い詰められて、数に勝る相手側によって袋叩きにされてしまう。
そんな最中にあっても、一歩も退かずにいるその子に、何故か目を離すことが出来なかった。
(──頑張れ)
棒を蹴飛ばした。けれど、取り巻きに殴られる。
(──頑張れっ)
必死に噛みついた。けれど、反撃で吹っ飛ばされて、三人がかりで踏み付けにされる。
(──頑張って!)
そんなぼろぼろの姿を見て怯えるどころか、拳を握り締め、胸の奥で強く応援していることに、自分自身が驚いている位だった。
喧嘩の推移は、ハッキリ言ってぼろ負けだ。でも、その子は絶対に根を上げず、遂には相手の方が振り払うようにして逃げてしまった。
自分は、その姿を、じっと見つめていた。痣だらけ傷だらけの、ぼろ雑巾みたいな姿。それが、とても格好よく見えたのだ。
もしも、運命の出会いみたいなモノが存在するとしたら、それは今この瞬間なのだろう。そう、強く思った。
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