限りなく透明な心

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富士子は目の前の生まれて8日目の港ちゃんを見ながら思いを巡らす。 ( いったい何が悪かったんだろう。お酒を飲んだ?飲んでない。気をつけて飲んでない。タバコは吸った事ない。どうしてこんなに重い心臓病の子供が生まれるの?ダメよそんなことを考えてはいけない。ここにいるのが私の息子。せっかく生まれて来てくれたんだから大切にしないと。可哀想に痛いでしょうね。針を刺しっぱなしで。痛いでしょうね。代わってあげられるなら代わってあげたい。私はなんて健康で元気だったんだろうか。障害を持って生まれてくる人のことを考えた事もなかった。私が傲慢だったから神様に罰を与えられたのかしら。これは罰なのだろうか。) 真っ白な壁に真っ白な天井の無機質な病室に機械音が響き渡る。昨日までいたホテルのような産婦人科とは大違いだった。一生のうちにそう何度も無いだろう出産を富士子は優雅に過ごしてみたかった。ほんの1週間前まではそうなるはずだった。結婚するまで家庭教師をしていた先が、タマタマ産婦人科の先生だった。何年もお付き合い頂きその産婦人科で出産しようと楽しみにしていた。結婚を機に家庭教師を辞めてすぐに具合が悪くなったので先生のところへ駆け込んだ。
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