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「次はどこへ行く?」
「ファミレス……は、窓が大きいから、外から丸見えだよな。喫茶店に行こう」
今度はコーヒーショップのチェーン店に入ることにした。
レトロな外観のコーヒーショップは、メニュー料金が学生には少し高いので、あまり入ったことはない。
「今度は通報されないといいな」
座席に腰を落ち着けながら、涼介が耳打ちしたので、
「ああ、そうだな」
と頷き返す。
メニュー表を見て、茜がパフェに興味を示していたので、パフェと3人分のカフェオレを注文した。
メニューが来るのを待つ間、ここでも物珍しそうに店内を見回していた茜が、ふと、壁に張られた一枚のポスターに目を留めた。
「…………」
「茜?」
真剣な表情が気になり、彼女の視線を追うと、白い洋館の写真が目に入った。ポスターの写真の上部には、『明治貴族が描いた未来〜那須野が原開拓浪漫譚〜』との文字が入っている。
「あの建物が気になるのか?」
問いかけると、
「はい」
という返事が返って来た。
「あんな建物に……私、住んでいた気がします」
「えっ!?もしかして、何か思い出したの?」
涼介が茜の方に身を乗り出した後、
「なあ、陸。あの建物、どっかで見たことあるよな」
俺の方を振り返ったので、
「確か……」
俺はスマホを取り出すと、うろ覚えだった建物の名称を検索した。
「ああ、これだ。『旧青木家那須別邸』」
スマホに映し出されたホームページをふたりに見せる。
「『明治時代にドイツ公使や外務大臣等を務めた青木周三の別邸』……だって」
「明治時代の建物かあ」
涼介が「へえ~」と感心した声を上げた。
「異国情緒があるよな。向日葵も綺麗だ」
白い洋館の前に広がる向日葵畑の写真を茜に見せると、茜は、
「本当!とっても綺麗です」
と言って微笑んだ。
「まさか、茜ちゃんの家ってここ?」
涼介の間抜けな問いかけに、
「馬鹿。ここなわけないだろ。ここは今、観光地だ」
俺は呆れた。
「じゃあ、なんで、ここに住んでいたなんて言ったんだ?」
「分かりません……」
涼介の言葉に、茜は首を振る。
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