あかね色の夢

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「茜の家は、やっぱり那須塩原市にあるのかもしれないな。それか、隣の那須町や、矢板市、大田原市とか……。『旧青木家那須別邸』も、もしかしたら行ったことがあって、記憶に残っているのかも」  俺はふと思いつき、日本遺産を紹介するホームページを検索した。  俺たちが住む那須塩原市を含む、那須町、矢板市、大田原市に点在するのいくつかの文化財は、あのポスターに書かれている『明治貴族が描いた未来〜那須野が原開拓浪漫譚〜』という日本遺産を構成している。『旧青木家那須別邸』もそのうちのひとつだ。  もし茜が那須野が原のどこかの市に住んでいるのなら、その市に関係する文化財の写真を見たら、何か思い出すかもしれないと思ったのだ。 「茜。これ見て。那須塩原市の『松方別邸』。ここも明治時代に建てられた洋館だよ。見覚えある?」 「見覚えはないのですが、なんとなく、やっぱり私、こんな雰囲気の家に住んでいたような、懐かしい気持ちはします」 「なるほど。じゃあ、こっちは?『山縣有朋記念館』」 「……お父様が……このようなお部屋で、どなたかと難しいお話をされていたような気も……」 「もしかして、段々、記憶戻って来た!?」  涼介も自分のスマホを取り出すと、那須野が原の観光名所を検索し始めた。  『那須疎水旧取水施設』。『蛇尾川』。『西郷神社』。『千本松牧場』。  ふたりで交互にあれこれと茜に写真を見せ、反応を見る。  殆どの写真に「見覚えはありません」と首を横に振っていた茜が、『千本松牧場』の写真を見た時、ふと、表情を曇らせた。  群れの中にいる一頭の乳牛を、アップで撮影した写真だ。  「牛、嫌いなのか?」  少し「嫌そうな」顔をした茜に、もしかして動物が嫌いなのかと思って尋ねてみると、彼女は、 「そういうわけではないのですが……」 と言葉を濁した。   その時、涼介が、 「あ、ヤバ!」 と声を上げた。
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