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振り返って涼介の視線を追うと、店の入り口に警察官が来ているのが目に入った。朝に交番で会った大柄な警察官のふたり組だ。
涼介の声が聞こえたのか、警察官が、こちらを見た。
思い切り、目が合う。
「行こう!」
俺は茜の手を取ると、椅子から立ち上がった。
涼介は律儀に財布からお金を取り出すと、テーブルの上に置いてから、俺たちの後に続く。
入り口は一つしかないので、警察官の横をすり抜けていくしかない。
「走るよ」
俺は茜に声を掛けると、ダッと駆け出し、
「待ちなさい!」
制止する警察官の腕を躱して店の外に飛び出した。
急いで自転車に飛び乗り、後ろを振り返ると、涼介が付いて来ていない。
もしかすると、警察官に掴まったのかもしれない。
「行こう、茜」
涼介には悪いが、今は茜を守るのが先決だ。
俺は自転車を漕ぎ出すと、車道を爆走した。荷台から振り落とされない様に、茜が俺の腰に抱き付いてくる。
その体温を感じながら、しかし、俺は茜を連れて一体どこに行けばいいのだろうかと考えていた。
目的地も定まらないままペダルを漕いでいる様は、まるで、どこに向かって進路を定めればいいのか分からない、俺の現状に似ているような気がした。
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