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「……もう少し、歩く?」
西日が差し始めた紅葉並木を見上げ、俺が誘うと、茜は赤い顔のまま、
「はい」
と頷いた。
なんとなく放し難くて、俺は茜と手を繋いだまま、『大山参道』を再び歩き始めた。誰もいない参道は、まるで俺たちだけのもののように感じる。
「あ……」
ふいに茜が小さな声を上げた。
茜を振り向くと、彼女は繋いでいない方の手をかざし、俺に見せた。茜の左手は、半透明に光り、まるで水のように見えた。
「もしかして、そろそろ帰る時間なのかな」
予感を感じて茜に声を掛けると、彼女はこくんと頷いた。
「また……会えるかな?」
声を掛ける間にも、茜の姿はどんどん半透明になっていく。
「きっと、会えなくても……私たちは繋がっていると思います」
「繋がっている?」
「はい。私の嫁ぎ先は、赤城家。私は赤城茜になるんです」
「……!」
俺が目を見開くのと、茜の体が光に包まれるのは同時だった。
「さようなら」
「……さようなら」
鮮やかな笑顔と最後の挨拶とともに、俺の手の中から茜の小さな手が消えていった。
紅葉が見せた幻だったかのように消えてしまった茜。
ただ、名残のように掌に残った温かさが、茜が確かにそこにいたことを証明していた。
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