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俺達はロータリーのバス停の前に自転車を停めると、降りて、女の子の側へと近づいた。
「ねえ、君」
声を掛けると、女の子は顔を上げ、濡れた瞳で俺を見上げた。
「こんなところで何をしてるの?迷子?」
彼女は、歳は俺たちとあまりかわらないように見える。
長い髪を頭の上で赤いリボンで結んでいて、袴をはいている。まるで一昔前の女学生みたいだ。
ぱっちりと目が大きくて、結構可愛い。
女の子は不安そうに瞳を揺らし、俺たちのことを見ていたが、
「はい。道に迷っています……」
小さな声でそう言った。
どうやら本当に迷子だったようだ。
「どこから来たの?どこへ行きたいの?」
「分かりません……」
俺の問いかけに、女の子は首を振る。
「分からないって……」
そう言われてしまったら、こちらは何ともしようがない。
俺と涼介は、困惑して顔を見合わせた。
「電車に乗ってきたわけ?」
涼介が尋ねると、
「でんしゃ?……いいえ」
女の子は首を振る。
「じゃあ、歩いて来たんだ」
「たぶん……」
涼介の問いかけに、曖昧ながらも、今度は縦に頷いた。
「で、どこから?」
「……分かりません。気が付いたらここにいたんです。その前のことは何も覚えていないんです」
女の子の目にまた涙が浮かんだ。
「覚えていないって……まさか記憶喪失?」
「そんなことってあるのか?」と俺は首を傾げた。
「じゃあ、君の名前は?」
「名前は覚えてんの?」
俺と涼介が聞いたのは同時だった。
「……茜。たぶん、清澄茜(きよすみあかね)……です」
彼女――茜は、頼りなさそうに名乗った。どうやら名前は憶えているようだ。
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