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「あの、ここはどこなのですか?あなた達は誰なのですか?」
茜は、自分の名前を思い出して少し落ち着いたのか、俺たちの顔を交互に見て問いかけた。
「ここは西那須野の駅前で、俺はすぐそこの高校に通ってる赤城陸(あかぎりく)」
「俺も同じ高校の恩田涼介(おんだりょうすけ)」
「陸さん……と涼介さん。ここは西那須野……?」
茜は地名にピンと来ていないようだ。もしかすると、他府県から来た旅行者なのかもしれない。
「記憶喪失って、どうやったらなるんだ?」
涼介が俺に耳打ちしたが、
「分らん」
俺は首を横に振る。
「漫画ではよく階段から落ちて、なってるよな」
「まさか彼女を階段から突き落とす気じゃないだろうな」
「んなこと、するわけねーって」
涼介は真顔で首を振った。
俺は茜に視線を戻すと、
「何か持ってないの?身分証明書とか……」
と聞いてみた。
「身分証明書?」
茜が首を傾げたので、
「学生証とか定期券とか。財布に入っていたりしない?」
と具体的に言ってみたが、茜はふるふると首を振った。
「何も荷物を持っていません」
言われてみれば、茜はバッグも何も持っていなかった。着物に袴、そして編み上げのブーツ、赤いリボン。彼女が身に付けているものはそれだけだ。
「ふぅ」
俺はやれやれと溜息をついた。
「こういう場合って、やっぱり警察かな」
涼介を見ると、彼も同感とばかりに頷いた。
「警察へ行こう」
俺は、すがる様に俺たちを見上げている茜に言った。
「警察?」
茜は吃驚した顔をしたが、
「警察なら、君のことを調べてくれるかも」
俺がそう言うと、納得したらしい。
「はい」と素直に頷いた。
もしかしたら、行方不明者として、捜索願が出されているかもしれない。
「確か近くに交番があったはずだ」
「んじゃ、茜ちゃん、行こうぜ」
俺たちは自転車に戻ると、手押ししながら、茜を連れて交番へ向かった。
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