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交番に着くと強面の警察官がふたりいて、制服姿の俺たちを見ると、訝しむ顔をした。
そういえば、もうとっくに学校が始まっている時間だ。サボりだと思われているのかもしれない。
「君たち、学校はどうしたんだ?」
筋肉質で体格の良い警察官が、やや威圧的な声音で問いかけたので、涼介が慌てたように、
「迷子の子がいたから、連れて来たんだ」
弁解するように言って、茜を指し示した。
「迷子?」
「駅前でひとりで泣いていました。どこから来たのか、覚えていないみたいです」
俺が補足をすると、警察官がますます訝しむ顔をする。
「どこから来たか覚えていないって、どういうことだ?」
「とりあえず、君たち、名前は?」
背の高い警察官が俺たちの前に立つと、問いただした。
「…………」
名前を言ってしまうと、家と学校に通報されて、ややこしいことになるような気がしたので、俺は自分に関してはだんまりを決め込むことにした。
「あっ、俺は、恩……」
うっかり名乗ろうとした涼介の脇腹を、肘で突く。
体格のいい警察官は茜に、
「君、名前は?歳はいくつ?家の住所は?学校はどこ?電車で来たの?」
と立て続けに質問をしている。
「あ、あの、私……」
警察官の矢継ぎ早の質問に、茜が怖がる様子を見せた。
「とりあえず、ここに座って」
「もしかして、君たちが夜通し連れ回したとかじゃないの?」
背の高い警察官に疑いの目を向けられ、
「違うって!本当に、朝、駅前を通りかかったら、この子がベンチで泣いていたんだ!」
涼介が心外だとばかりに、警察官に食って掛かった。
涼介の大きな声に驚いて、茜がびくっと体を震わせた。警察官達の居丈高な態度にすっかり萎縮してしまった茜を見て、俺は、このまま彼女を、彼らに任せておいてはいけないような気がした。
「すみません。そういやこの子、友達の妹でした。今、思い出しました」
俺は適当なことを口にすると、茜の手を取った。
「行こう」
そのまま、さっさと交番を出て行く。
「おい、陸!」
涼介が吃驚したように俺の名前を呼び、追いかけて来た。
「こら、君たち、待ちなさい!」
警察官の制止の声が聞こえたが、耳を貸さず、俺は交番の前に停めていた自転車に飛び乗ると、
「茜、後ろに乗って」
彼女を荷台に座らせ、ペダルを踏んだ。
「こらーっ!二人乗りをするな!」
交番から出て来た警察官の怒鳴り声が聞こえたが、無視をして走る。
「どこに行くんだよ、陸!」
すぐに俺の自転車に追いついて来た涼介が叫ぶ様に問いかけたので、俺は、
「とりあえず、ゆっくり話せる場所に入ろう」
と叫び返した。
「んじゃ、ハンバーガーでも食べに行こうぜ」
「オッケー」
俺たちは茜を連れて、ファーストフード店に向かうことにした。
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