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「いらっしゃいませ。ご注文は何になさいますか?」
行きつけのハンバーガーショップに行くと、笑顔の素敵な店員が、俺たちに声を掛けて来た。
「ええと、ジャンボキングバーガーと、ポテトのLサイズ。あとコーラ」
「俺はてりやきビーフバーガーと、ポテトのLサイズと、オレンジジュースで。茜は何にする?」
俺と涼介が迷いなく注文した後、茜を振り返ると、しきりに店内をきょろきょろしていた彼女は、
「えっ?あ、あの……注文?」
戸惑った様子で俺の顔を見つめた。
メニュー内容が分からないのかと思って、
「はい、これメニュー」
カウンターに置いてあったメニュー表を差し出すと、
「ハンバーガー……?フィッシュ……エビ……?」
茜はメニュー表に視線を落とし、難しい顔になった。
彼女の戸惑った様子を見て、
(まさか、ファーストフード店に入ったことがないとか……そんなことあるわけないよな)
と考えていると、
「あのぅ、これ、よく分かりません……」
茜は困り切った顔で俺にメニュー表を返した。
「まさか君……ハンバーガー食べたことないの!?」
涼介も俺と同じことを思ったのか、素っ頓狂な声を上げる。
茜は、涼介の顔を見上げると、こくんと頷いた。
「マジか……」
呆気にとられている涼介。
俺は茜に返されたメニュー表をカウンターの上に戻しながら、
「じゃあ、適当に頼むよ。ハンバーガーと、アップルパイと、ミルクティ」
女子の好きそうなものを適当に注文し、茜の分のお金も払った。バッグも何も持っていない茜は、きっとお金も持っていないだろうと思ったのだ。
注文したメニューが揃うと、俺たちはトレイを持って席に着いた。
早速、包み紙をはがし、バーガーに齧りつく。
「そういや、俺たち、すっかり学校サボリだな」
涼介が、ジャンボキングバーガーのソースで口元を汚しながら、思い出したようにそう言い、はははと笑った。
「仕方ない。茜を放ってはおけないし」
俺は隣の席で難しい顔でハンバーガーを見つめている茜に目を向けた。
「食べないの?」
「あっ、すみません。いただきます」
茜は恐る恐ると言った様子でハンバーガーに齧りつき、
「……!」
目を輝かせた。
「美味しい……!」
「なんか、新鮮。これがハンバーガーを初めて食べる女の子の反応なのか」
涼介がどこか嬉しそうに茜を見ている。
「お腹が空いていたので、嬉しいです。ありがとうございます」
茜は俺の顔を見ると、にっこりと笑って、頭を下げた。
初めて茜が見せた笑顔に、思わずドキッとする。
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