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「それで、茜ちゃんは本当に何も覚えていないわけ?」
あっという間に自分の分のバーガーを食べ終えた涼介が、ポテトを摘まみながら茜に尋ねた。
「はい」
茜は表情を曇らせ、こくりと頷く。
「駅に来る直前のことも?」
俺が重ねて問うと、茜は宙を見て記憶を探る様に、
「私、どこかへ行きたいと……どこかへ逃げてしまいたいと、思っていたような気がします」
と言った。
「逃げたい?どこから?」
「わかりません……。ただ、逃げたい、と思って走っていたら、いつの間にかあの場所に辿り着いていたような……」
俺と涼介は顔を見合わせた。
漠然とし過ぎていて、茜がどこから来たのか、まるで見当もつかない。
困っている俺たちを見て、茜は申し訳なさそうに、
「すみません。自分のことですから、私、ひとりで何とかしますので、どうかあなた方はお気になさらず……」
と口にしたが、
「困ってる女の子を放っておけるかよ。な、陸」
「当たり前だ」
俺と涼介は首を振った。
「もしかするとそのうち何か思い出すかもしれないから、とりあえず俺たちと一緒に居なよ」
俺がそう言うと、茜は申し訳なさそうに、けれどほっとしたように、
「ありがとうございます」
と頭を下げた。
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