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「寒くなって来たなぁ……」
首筋に冷やりとした風を感じ、俺は自転車を漕ぐ速度を緩めた。
長い夏の名残のように、10月までは暑い日も多かったが、11月に入ってからぐっと気温が下がり、ようやく秋めいて来た感じだ。
「おっす、陸!」
ふいに後ろから声を掛けられ、それとほぼ同時に、俺の自転車の横にすっと青い自転車が現れた。
「涼介」
俺と同じ制服姿の男子は、同級生の涼介だ。涼介とはクラスは違うが、クラブ(演劇部だ)が一緒で、結構気が合うので仲良くしている。彼も自転車通学で、俺と同じ道を通るため、時々こうして朝に出会うことがある。
「おはよう」
「今日は寒いなぁ」
「そうだな」
「そういえば、3組も進路指導面接って始まったのか?俺、今日なんだよね」
俺の自転車に並走しながら、涼介が話を振って来た。
「ああ、俺も今日だよ」
「気が重いよなぁ。陸は進路どうするんだ?進学?就職?」
「そうだなぁ……」
朝から憂鬱な話題だ。
こないだ高校に入学したばかりのような気がするのに、来年には3年生で、きっと、あっという間に卒業式がやって来る。
高校生の青春は短い。
そして、その短い青春期間の間に、将来の進路も決めなければならない。
俺は、まだぼんやりとだが、胸に秘めている夢について考えた。
それを口に出したら、高確率で、親や教師には反対されるに違いない。
「……はぁ」
思わず溜息が出た。そして、
「涼介は何か考えてるのか?」
と逆に問い返してみる。
「俺は地元で就職だな。大学行けるほど賢くねぇし、親に学費払ってもらうのも悪い」
「偉いな、お前」
「別に偉くはないだろ」
自転車に乗りながら、涼介は器用に肩をすくめて見せる。
そんな話をしながら西那須野駅のロータリーに差し掛かった時、バス停のベンチに着物姿の女の子が座っているのが見え、俺は思わずそちらに顔を向けた。
「ん?どうした?」
俺が横を向いたので、涼介も同じように横を向く。
こんな場所に着物を着た子がいることだけでも珍しいのに、どうやら彼女は泣いているようだ。
(迷子?こんな場所で、まさかな……)
「…………」
一旦はロータリーを素通りしたが、やはり気になって、俺は自転車をUターンさせた。
「おい、陸!」
涼介も慌てて自転車をUターンさせ、俺の後について来る。
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