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自慢じゃないが、俺は子供の頃から顔が怖かった。おまけに人見知りだから誰にも話しかけられず、遠巻きに皆が遊ぶのをただ眺めていた。
ただそれだけなのに、睨んでいると思われて怖がられるんだからいったいどうすればいいんだよ。まあ、この見た目のお陰か虐められることはなかったが、かと言って友達らしい友達も出来ずに現在に至るってとこだ。
「うーん、我れながら上出来」
そんな俺が一念発起したのは高校を卒業してからで、卒業と同時に海沿いの田舎町から上京し、まずは居酒屋でバイトを始めた。接客中にお客さんを怖がらせたと厨房に回されたが、思えばこれが俺の料理好きに拍車をかけた。
特に何がしたいかの目標はなかったが、地元にいても何も変わらない気がして。そんな時、スカウトされたのが今の悪役専門の芸能事務所で、この恐い顔を活かして悪役をやることで何かを解放出来た気がしたのだ。
「あ。撮るの忘れた」
昔からこの顔にはコンプレックスを持っていた。こんな顔なのに本当は弱虫な恐がりで、こっそり男らしい男に憧れていた。
それだけに、この仕事は天職だと思う。なりたい人間になれるのが役者で、ただ俺の場合、役柄は限られて来るけどな。
「ま、いっか。次作った時にインスタに上げよ」
因みにSNSには裏アカがあり、俺はスイーツ男子の藤として、顔は隠してスイーツを作って食べる動画を配信している。実はこれが本アカよりも人気だったりするんだけど、料理やスイーツ作りはあくまでも趣味で、別に料理人やパティシエになりたいわけではなかった。
「ふぅー、食った食った」
役者と言っても別に主役になりたいわけじゃない。自分が主役じゃないことは身を持って知っているし、役者になったもののあまり目立ちたくはなかった。
ただ別人になれることが嬉しくて、売れないながらこの仕事を続けてはや5年。二十歳だった俺は25になり、今ではBシネマだけじゃなく、サスペンスドラマやCMにも出演依頼が来るようになっている。
「と言っても出た瞬間に殺されたり、殺して逃げたりするけどな」
スイーツを食べながらにしては物騒なことを口にして、また苦笑う。この顔も悪人顔なんだろうなと溜め息をつき、残りひと切れのパンケーキにフォークをぶっ刺した。
とろりと流れるのはメイプルシロップで、決して血なんかじゃない。それでも、蜂蜜よりも鮮血が似合う自分を思い、また溜め息をついた。
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