[第1話]化けの皮

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 最後の一切れを平らげ、携帯を手にしてツイッターのアプリを立ち上げる。 「パンケーキを食べた、大小二個のハート、改行。われながら美味しかったよん、舌出しニコニコマーク、改行。写真撮るの忘れちゃった、汗、改行。また今度アップするね、ごめんなさいって手を合わせて……、と」  インスタと同じアカウント名『藤』のツイッターに、俺はパンケーキを食べた後の食器の写真と絵文字付きのコメントを投稿した。 「ふふっ、我ながら可愛いな……」  僅かにパンケーキの欠片(かけら)が残る平皿はお気に入りの雑貨屋のものをネットで通販したもので、さっき平らげたばかりのパンケーキのデコレーションに劣らぬ可愛さだ。  実は雑貨なんかの小物も可愛いものが好きな俺の部屋は、一見してどこぞのOLの部屋のようだったりする。 「早速、いいねとコメントがついた……。やった、藤崎の裏アカからもだ」  スイーツ好きな女の子を中心に、それなりに人気のアカウントだけにものの数秒でいいねが続々と付いて行く。その中に俺と同い年らしい人気俳優の藤崎(ふじさき)(がく)の裏アカを見付けて、俺は慌ててそのアカウントの先を辿った。 「藤崎、もしかして今日は休みなのかな……。あ。タケユカの写真、アップされてる……!」  藤崎の裏アカは藤崎が飼っている二匹の保護猫の様子を投稿しているアカウントで、俺は裏アカの方でそのアカウントをフォローしている。 『藤さん、こんにちは。とても美味しそうですね。実は内緒だけど僕もスイーツ男子で……』  フォローした日の夜に、 フォロバされてそんな内容のダイレクトメールが藤崎から送られて来た時は驚いたなあ。話してみると猫好きの他にもいくつも同じ好きなものがあったりして、俺はスイーツ男子の藤として彼とすっかり仲良くなったのだ。SNS上だけど。  実は一度だけ、彼が主演のドラマに脇役として出演したことがある。出て直ぐ死んだけど。それもあって身バレしないかとドキドキしてるんだけど、どうやらバレてはいないみたいでひと安心していたり。 「はあ……、それにしてもタケユカ可愛いなあ」  藤崎が飼っている二匹の猫は成猫のユカリと子猫のタケルと言う何故か日本人っぽい名前で、二匹(ふたり)を見ていると実家の飼い猫を思い出す。特にお姉ちゃんのユカリは、うちのねこ(名前が『ねこ』だったり)と同じハチワレで白い靴下を履いた白黒二色の日本猫だ。 「ふはーっ、もふもふ……っっ」  しかも冬毛に生え変わってばかりで、もふり具合が半端ない。弟のタケルは毛足の長いアメショのミックスで、藤崎は二匹(ふたり)同時に自宅マンションの部屋にお迎えしたらしかった。 「あーっ、もふりたいっっ。いいなあ、猫飼いたいなあ……」  おまけにそのマンションはペット可の高級マンションだなんて、羨ましいにもほどがある。勿論、売れっ子なのもあるけど実家がお金持ちらしく、高層マンションの最上階に住んでいるんだそうだ。  モデルあがりの彼は誰もが振り返る国民的イケメンで、好感度も半端なくて非の打ち所もない。 「いいなあ。猫飼ってるし、イケメンだし。おまけに、いい人だし」  俺のようにコソコソされたり、後ろ指を指されたり、子供に泣かれたりすることもないんだろうな。因みに彼とは公式のアカウントでも繋がってはいるけど、そちらでのやり取りは全くなかった。
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