紅顔の悪魔

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触れられた手から腕を登るように、肩に向けて這い上がる指を軽く振り払う。 「物忘れを治してここから出るだけで、ぼったくるつもりはないよな? ……人間の魂じゃあないんだぜ」 そうだ。魔界の生き物の魂は、人間のそれより悪魔は喉から手が出るほど欲しいはずだ。 ―――魂とは何か。 生き物それぞれが持ち合わせる生命エネルギー、とここでは解釈されている。それぞれ各々種族によって重さや色、性質などが違う。 一般的には魔力や先の寿命が高く長い者であればあるほど、その生命エネルギーは高品質だと聞いた事がある。 そしてこいつら悪魔は集めた魂を様々に取り扱う事が可能な生き物だ。契約で縛って使役する使い魔にしたり、無機物に閉じ込めたり。 単純に喰らったりする者もいるらしい。食われた魂はどうなるのか、それは彼ら自身も分からないとか。 契約とはそんな個々の魂を『呪い』と『約束』によって縛り付ける行為。 まぁオレ自身はゴーストは見たことあるが、肉体から魂が離れる瞬間だとかそう言うのはみたことない。 あとそのゴーストの多くは悪魔との契約の影響で、肉体が滅び朽ち果ててもそのままその場に縛られる存在だとか。 詳しくは知らない。魔界の人間と言えど、その全てを知ることも必要性もないからな。 ここは人間界より多様性が過ぎるのだ。だから互いがその場に居ることを『許容』出来ればいいだけの世界さ。 「しかしねぇ。……おっと、少し失礼しますよ」 「お、おいっ」 突然、悪魔はガキの見た目とは思えない程の力でオレの肩に手を掛けて押し倒してくる。 無防備だったのもあり、ムカつくほど簡単に仰向けに転がった身体に小柄な身体が乗り上げた。 「何してんだよッ、この変態……っいッ!?」 既に胸や脇腹をやわやわと触り始める手を払い除けようとすると、やはり繊細な指なのにゴリラみたいな握力で両手を纏めて頭上に縫い止められる。 いくら抗おうにも起き上がることひとつ出来ない事態に、じわりと焦りがつのった。 「邪魔しないで下さい。子供じゃないんだから」 「っ、き、君なぁ……」 先程までの媚や物腰柔らかな態度はどこへやら、冷たい声と険しい表情で少年悪魔はオレの身体を撫でるように触りまくる。 「ぅ……く、さ、触んなっ……」 胸元を執拗にまさぐり始めた不埒な手の主を強く睨みつければ、真剣な真顔のままで彼は小首を傾げて口を開いた。 「勘違いしないで下さいよ。これは仕事です……まぁ、その反応はすごく興味をそそりますけど、ね」 「ぁあッ……!」 強く摘まれた胸の突起。思わず声を上げた瞬間にはもうあまりの羞恥で死にたくなる。 悪魔が、ニヤリと相好を崩したからだ。 「だいぶ躾が行き届いているようで」 「うるさいッ! 死ね! この変態悪魔ッ!」 「ま、悪魔ですけどねぇ……もうちょっと我慢」 「ッ、ひぁッ……ぁ、あ……や、だ……」 くりくりとそこを嬲られる。指先で弾いたり、柔らかく摘んで揉みほぐすように刺激したり。遂には片方口に含まれた時は、噛んだ唇の間からも聞くに耐えない声が漏れてしまう始末。 「こりゃあ、予想以上ですね。すっかり雌じゃないですか」 「っうぅ……ふ、ぁ……んんッ、うる、さ……い」 別に感じたくて感じてんじゃあない! あのクソ狼が、オレの身体をこんなのにしやがったから。散々弄られて灯る快感の火に、どうしようもなく焦れて仕方ない。 息も上がるし最悪だ。こんな姿、見せたくないのに。きっとオレの顔もだらしなく快楽に歪んでいるのだろう。ここに鏡がなくて良かった。 しかしこのニヤけ顔のガキはさらに意地悪くその笑みを深くして、無邪気を装った揶揄い口調でオレの心を抉りにかかる。 「足まで擦り合わせちゃって、まぁ……お、元気な事で」 「くそっ、見るな、っあぁ……!」 緩やかにだが立ち上がったソレを絶妙な力加減で撫で上げられて悲鳴を上げてしまう。 ……っちょっと待て、手の位置がおかしい。 錯乱と神経過敏の快感の狭間で、違和感を覚える。 「あ。バレちゃいました? 上、見てご覧なさい」 「上?」 示されるままに頭上、ベッドの頭側に視線を向けると……。 「なっ、なんだッ、こいつ!」 人がいる! オレの頭の辺りに人影、いやハッキリと人がいた。薄く透けたようなソイツがオレの両手首を凄い力で締め上げているんだ。 「ちょっとお手伝いを、ね……あ。この人は人間だったんですけど、なかなか有能でねぇ。実体に触れるんですよ。手だけ、ですけど」 恐ろしく整った顔に長い髪をしているが、恐らく男だ。虚ろな目は身体同様、透明でどこを映しているやら……いや、自我がちゃんとあるのかすら怪しい。 「こ、この野郎っ……ゴーストに手伝わせてたのかよ」 「ええ悪魔ですから」 恐らくこの男も、悪魔に魂を売った人間の成れの果てだろう。 死んでからもこうやって一定期間魂を支配され続ける。擦れ切れて完全に消滅してしまうまで。 ……人間ならあともって数年、という所か。 だからこそ悪魔は人間の魂より寿命が長く、多少『長持ちのする』我々魔界の者の魂を好むのだろう。
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