紅顔の悪魔

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やっぱりこの悪魔自身もゴリラみたいな力しやがる! そんな力で遠心力たっぷり含んだ勢いで吹っ飛ばされて、オレは踏ん張りも効かず前のめりに倒れ込んだ。 「っ……!!」 当然、このままだと床に顔面強打でキスするだろう。しかし身体を捻る余裕も地面に着く手を出す暇もない。 出来たのは咄嗟に観念して目をきつく閉じる事で―――。 「んんっ……?」 いつまで経っても硬い床とのキスは成されず、それどころか温かくそれより柔らかい感触に包まれたのを感じ、恐る恐る目を開けた。 「フィン、大丈夫か?」 すると目の前に大写しになったのは、見慣れた顔。お馴染みクソッタレな人狼だ。 つまり倒れ込んだところを彼が抱きとめた、といった具合か。だからムカムカするくらい筋肉質の腕と胸に包まれている、という訳だ。 ……うん。暑苦しいし、やっぱりムカつく。なんで同じ年頃の男なのにこんなに違うんだよ。 ガキの頃はそんなに体格差なかったのになァ。 獣人ってだから嫌いなんだよ。無駄にデカいし、やたら顔の良い奴多いし。 女の子は大歓迎だけど、男はコンプレックス刺激しかしねぇもん。 ふと気がつくと、既に後方のベッドにいたはずの悪魔の気配は消えている。逃げ出したようだ……とりあえずオレは内心胸を撫で下ろした。 「フィン」 ……それにしても、こいつもやっぱり綺麗な顔しやがるよなァ。無駄にイケメン。その中身は病んでるし、イカれてるし、サイコホモだけど。 なんて呑気して考えていると、その美男子が表情を曇らせて再びオレの名を呼ぶ。 「フィン? なぁ……おい、フィン」 「……」 「どうした。どこか打ったのか? フィン」 「あー……いや別に」 「痛いか? どこか痛むのか」 「だから別に……」 「可哀想に……あの悪魔、殺して来てやるからな」 「君なぁっ、いい加減に人の話を聞けよぉぉぉッ!」 このバカ狼にブチ切れても許されると思う。 だって、こいつ全然オレの話聞かねぇもん。さっきからちゃんと答えてるっつーのに。 「このバカ狼ッ! オレの言うこともたまにはちゃんと聞きやがれぇぇッ!」 胸ぐら引っ掴んで怒鳴り散らす。 ここ最近、こいつには抱き潰されて泣かされてばっかりでちゃんと言葉を交わしていない。 でも、それじゃあ駄目だ。ちゃんと伝えないと……いけ好かないし、ムカつくし。頭おかしい奴だけど。 ……オレの、幼馴染みだった奴だから。 「レミー。君は一体何を隠してるんだ……オレは一体何を無くしたんだ? 全て返してくれ。呪い? それも全部解け」 「嫌だ」 頑なな目をしているが、その表情はあくまで無表情だ。しかしオレを抱きしめる腕はわずかに震えているのに気が付いた時、オレはやっぱり諦めたくないと思った。 「ちゃんと聞けよ。……ガキの頃、君はいつもオレを守ってくれたよな。女装はさせるし女扱いして『お姫様』なんて呼んでたけど、いつも傍に居てくれた」 別にあの時はそれが嫌じゃあなかったんだ。 むしろ、本気であいつのこと『王子様』なんて呼んでたし。大人になってもずっと一緒にいられると思ってた。 「でもな。君とオレは種族も立場も違うんだ。分かるだろう? 」
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