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檻の中の花
豪奢な部屋。一目見て溢れるように置かれた調度品は高価なものだと分かる。
なのに窓にだけ不釣り合いな鉄格子が嵌っていた。
今のオレは、そこに入る月明かりすら恨めしい。
「も、もぅ……っ、出して……たすけ、て……」
窓に向けて伸ばした手は届かない。
それどころか、その腕すら絡め取られ再びベッドに沈められてしまう。
快楽の地獄に叩き込まれる事が怖くて怖くて、震えて懇願の言葉を連ねようが。
「何を言っている。俺がお前の、救いだろう」
「ひっ……っあ、も、だめ……ぇ……ああ、ああっ……!」
散々受け入れさせられてようやく引き抜かれたそこ……本来排泄器官であるのに。無理矢理教えこまれた快感が限りなく与えられて、オレ自身を追い詰めて再起不能にしていく。
「こ、こわ……ぃ……やだ……も、こわ、れ……」
「壊れても、いいぜ。俺が、愛して、やる、未来永劫……な」
耳元で壊れろと、愛すると相反するような睦言を囁くこの男。
その荒々しい吐息が耳に。ゾクゾクと寒気のような感覚が這い上がり堪らなくて。唇を咄嗟に噛み締めなければ、あられもない悲鳴のような声を上げてしまいそうだ。
「うぅっ……ん、くぅっ……」
「我慢するなよ。もっともっと、だ。ほら、もっと気持ちよくなろうぜ、なぁッ」
「っひぐッ……ぁ……ッ……ぅあアッ!」
ゆっくり引かれた腰を次の瞬間、勢い良く打ち付けられ、強烈な衝撃と快感に痙攣を起こし身悶えする。
何度達したか分からない身体は、弛緩と緊張を繰り返し息も絶え絶えだ。
「ほぅ……もうなんにも出ねぇな。ふふ、女の子みたいだ」
彼はうっそりと笑って、オレの腹とその下の性器を撫でる。
「れ、レミー……た、たの、む……ゆるし、て、くれ……」
もう逃げない。逃げないから、と泣いて乞うがその耳には届かないのか。
ガチャ、と手首と首に掛けられた重々しい鎖の音に囚われの我が身を思い知らされて声なき声で慟哭する。
「許さないよ。お前は二度も俺から逃げ出したじゃねぇか……もっとお仕置きが必要なのだろう?」
そう言うと枕元からとりだしたのは……。
「そっ、それだけは……もう、やだっ、助けてっ、やだぁぁッ」
枯れた声を張り上げて逃げ出そうと白く清潔だったシーツの上を這い回る。
何度もそれは振り上げられたのだ。
鈍く光を反射させる銀色のナイフ、所々赤黒い血のシミがこびりついた。それでも切れ味は損なわないのか、真っ直ぐに彼の逞しい腕に突き立てられ一筋の傷を作る。
ぷつぷつぷつ、と傷口から珠のように紅い血が。それが糸のようにつぅーっと垂れて……。
「あっ、あっ、あっ……ぁ……」
厳つい片手で易々と顔を固定され口を開けさせられたオレの口内に、舌の上に垂らされたその液体。
この男、人狼の血。
『人狼の血は、吸血鬼にとっての極上の媚薬』だと、この男が言ったのを覚えている。
オレは知らなかった。
この世にここまで脳を焼くような快楽と、暴力的の酩酊感を伴う媚薬が存在するなんて。
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